第150話 意外な訪問客
聞き返したまではよかった。
説明するカラスが怒涛のようにくあくあと語るから、聞いてるこっちの情報処理が追いつかねえ。
「要するに、世界は魔力に満ちている。んで、魔力は水のように流動的なんだな」
「おう。水なら川が流れ池になる。それが魔力の場合は大地を盛り上げ山になる」
最初からそれだけ説明すりゃいいのに。
魔力の仕組みやら成り立ちとか聞いても頭に入ってこねえし。
「その考えでいくと、魔力が噴き出したのが火山の噴火か」
「おう。山が大きく高くなるほど魔力だと動き辛くなる」
「重量が増えるからかな。その結果、魔力が凝縮されていくわけか。でもそれなら魔力分だけ山が大きくならないか?」
「そこがまた複雑なとこでな。お前、俺の魔力解説聞いてたか?」
「あ、いや、うん」
「っち。一言でまとめると」
「おう」
「山の中で魔力がぐあぐあして火山がぐあああーだ」
ほんとぶっちゃけたな。理屈じゃなく感じろか。
もう一度詳しく聞いても余り理解は進まないだろうし、こういうのは書物を読み解きつつノートにメモでもしないと頭に入らん。
そこまでして魔力を知りたい訳じゃあないしなあ。
「ありがとう、カラス」
「おう」
会話をしているうちに、いもむし型スナック菓子は綺麗さっぱり無くなっていた。
それにしても……おかわりをせがむカラスへポテトチップスを出してやりつつ、苦笑する。
「大地は魔力に満ちている」か。
俺にとってこの世界での不可思議と思える現象は、魔力が原因でちゃんと法則や理屈に従って動いている……んだろうな。
カラスは魔力について詳しく知る学者みたいなもんか。磁石がくっ付いたり反発し合うことはみんな知っているけど、それが何故か知っている人は限られる。
魔力も同じようなもんで、魔力が働いた結果どうなるか知る人は多いけど、仕組みを知る者は少ない。
「魔力があるから物理法則だけで考えると判断を誤る可能性もある……か」
一人呟いたつもりだったが、カラスは「分かってきたじゃねえか」と反応を返す。
もちろん、ポテトチップスを貪りながら。
今回の予兆が火山の噴火だけで済めばいいんだけど……。
◇◇◇
翌日昼ごろ――。
「また地震か」
のろのろと二階にあがり、バルコニーから周囲の様子をうかがう。
うん。変わったことはないな。
「どうしたの?」
お仕事がお休みなタイタニアがバルコニーで両膝を床につけしゃがんでいた。
「さっき揺れたからさ」
「モニター? だったっけ? 使わないの?」
「たしかに。そっちのがいいか。あと、いつもありがとう。タイタニア」
「ううん。カラスさんとハトさんも喜んでくれるから」
タイタニアは、ふんわりとした笑顔を浮かべ、ひまわりの種(業務用)と書かれた大きなビニール袋を傾ける。
彼女は手があいている時、こんな感じでハトとカラスに餌をあげてくれていた。
さらに彼女は二羽が餌を突く様子を両膝をつけて嬉しそうにじっと眺めていたりする。
そんなこともあってか二羽はタイタニアによく懐いていて、俺だけじゃなく彼女にも餌をせがむ……。
たまにゃあいじらしい態度でもとればいいのにと思うが、二羽は相変わらずの様子。
ほんと可愛げのない奴らだよ。
「もうちょっと可愛い反応をするペットを飼ってみるのもいいかもなあ」
「どんな動物にするの?」
タイタニアの反応も悪くない。
「ラオサムみたいなモフモフしたのがいいなあ」
ワギャンの騎乗狼たるクーシーのラオサムは滅多に我が家に帰ってこない。
ラオサム用の小屋を作ったんだけど牧場の方で暮らしている。
というのは、牧場が見えない壁で護られていて安全だからだ。安全なら、わざわざ家の中で厳重に護る必要がない。
クーシーは群を作る習性らしく、一緒に暮らせるのならその方がいいらしい。
だけど、主人のワギャンから餌をあげたりとコボルトなりのやり方で主従関係を築いているみたいだ。
「楽しみ!」
タイタニアは両手を胸の前で組み、にへえと口元が緩む。
「いずれ何か飼おう。その時はタイタニアが選んでくれよ」
「え? わたしが? 困っちゃうよ」
ぶるぶると首をふり、たじろくタイタニア。
「すまん、嫌だと思うとは考えてなくて」
「ううん、そんなことはないの」
「そうなのか」
「うん。たくさんの中から一匹だけなんて選べないよ」
なるほど。そういうことか。
ハトにさえ愛情を向けるタイタニアらしい。
「じゃあ、一緒に選ぼうか」
「うん!」
タイタニアが気にいる種をって思ったけど、犬にするか猫にするかその辺は俺が決めてしまおう。
ペットのことはアイシャとマッスルブに相談するかな。
◇◇◇
リビングでモニターをほうほうと一人頷きながら眺めていたら、ぴんぽーんとベルが鳴る。
「はいはいー今出るよー」
「ふじちま殿。突然の訪問失礼いたす」
「いや、別に俺に会うのに事前アポとか要らないからさ。もっと気軽に」
「かたじけない」
扉の外にいたのは白黒の虎柄がカッコいいリュティエだった。
彼が一人で訪ねてくるなんて珍しい。彼からの伝言がある時はワギャンからか、集会所で聞くかだからな。
リュティエを中に通し、ダイニングテーブルのところに座ってもらった。
「コーヒーか紅茶、あと緑茶があるけどどれがいい?」
「いえ、ふじちま殿が手づからなど」
リュティエが立ち上がろうとしたので、両手で「まあまあ」と再び座らせる。
「どうしたの? あ、リュティエさん! こんにちは!」
「お邪魔しております」
リュティエが大きな体を小さく揺らしタイタニアに返事をした。
「フジィ、お茶ならわたしが淹れてもいいかな?」
「もちろんだよ。お願いして悪いな」
「ううん、わたしが淹れたいから! リュティエさんは紅茶だよね」
「かたじけない」
タイタニアは集会所でお茶出しをすることが多い。
当初はフレデリックが給仕をしていたのだが、みんな打ち解けて来てざっくばらんな雰囲気になってくるとタイタニアが淹れることが多くなった。
もちろん、本人たっての希望なんだけどね。
そんな経験から彼女はリュティエの好みを把握していたみたいだ。おそらく他のみんなの分も記憶していると思う。
細やかな気配りができて、嫌がらずに餌やりとかもやってくれる。ほんといい子だよ彼女は。
「どうしたの? フジィ」
「コーヒー、ありがとうな」
「うん!」
しみじみと眺めていたらタイタニアと目が合う。
彼女は不思議そうに目をまるくしながらも、コーヒーと紅茶をテーブルの上に順に置いていく。
「お待たせ。リュティエ。一体何があったんだ?」
「サマルカンドに何かあったわけではありませぬ。非常に順調で家畜も増えてきております」
「てことはサマルカンドの外か」
「はい。ワギャンは空からサマルカンド周辺を監視しておりますが、遠出する者もいます」
「んん?」
「我々は西の荒地から来たのですが、故郷の様子を見に行きたい者はいるのです」
「なるほど。そういうことか。それで、やっぱり竜人はいるんだよな?」
「然り。ですが」
リュティエはそこで一旦口をつぐみ、目を瞑る。
彼にしては珍しく、耳がピクピクと動いていた。
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