第141話 プールだぜ
入口はホールになっていて、ここで左右に分かれる。
よくある温浴施設なんかだと受付とコインロッカーがあるんだが、料金を取る必要も無し荷物は脱衣所でも放り込めるからここには下駄箱があるだけだ。
左に進むと、三十人くらいが入ることができる広さの部屋がある。コンクリート打ちっぱなしで何も物が置かれていないから、余計殺風景に見える。
ここにロッカーと洗面台、ドライヤーやらを設置して……よし、完成。
この部屋からプールに続く道とシャワールームに続く道へ分かれる。
シャワーは設置済みなので、今度は右側をやってしまおう。
右側が済み、シャワーが出るかどうかだけ確かめた後、いよいよプールサイドへ。
「お、池か」
カラスが率直な感想を述べる。
「これはプールというんだ」
「ほう。あの滑り台みたいなのは何だ?」
「あれはウォータースライダー。あっちは飛び込み台だよ」
「すぐ使えるのか?」
カラスがワクワクした様子だったけど、残念ながらウォータースライダーはまだ使えない。
水を流していないから、乗っかっても体が下へ滑り落ちていってくれないからな。
「順番にチェックしていくから、適当に見て回っていてくれ」
「おうよ。水の中に入ってもいいのか」
「うん。問題ない」
カラスが俺の肩から飛び立ち、ウォータースライダーへ向かって行った。
さて、いつまでも彼を目で追っていても進まないな。
まずは、プール本体のチェックだ。
プールは五十メートルプールを横に二つ繋げたような形をしていて、深さは二メートル。リュティエだと頭の先が出てしまうけど、まずはお試しってことで。
もう少し深くした方がいいかもしれないな……飛び込み台に目をやりそんなことを思う。
プールは既に水は張られていて、いつでも泳ぐことができるようになっていた。
次に飛び込み台だ。
飛び込み台はシンプルな作りで、階段を登り薄い板を進んで飛び降りる形になる。板はしなるようにできていて、尖端まで進み勢いよく蹴れば飛び上がるのを補佐してくれる仕組ってわけだ。飛び込み台の高さは四メートルと八メートルの二か所。
いろいろ遊びを付け加えたかったけど、シンプルで分かりやすい方がいいと思ってさ。
だけど、ウォータースライダーだけは外せなかった。
俺の中でプールと言えばこれだからな。
ウォータースライダーは螺旋状に伸びた筒の中を滑るアトラクションになる。
高さは天井ギリ一杯までとって十五メートルとこの建物の中では一番高い。
階段を登って行き、頂上から螺旋状の筒の中を進んで、最後はプールの中にどしゃーんと落ちる動きだ。
下層部の筒は上側が切られていて、外の景色を楽しむこともできるようにした。
スイッチを入れるとてっぺんから水が流れる仕組みになっていて、使用停止する時はスイッチを切るだけとお手軽なところも拘りポイントなんだ。
「んじゃー。動かすぞー」
「待ってたぜ」
ウォータースライダーの頂上部に止まったカラスが威勢のいい声を出す。
赤い丸いスイッチを押し込むと、うおおおんと音を立て水が流れ始めた。
すぐにカラスが筒の中に飛び込み、出口から出て来て水の上を滑るようにして水中に入る。
カラスもさすがに水鳥じゃないから、水の上に浮かぶことはないんだな。
頭だけ出して、プールサイドに戻ったカラスはばさばさーと翼を震わせ自分の体に付着した水をはじいた。
「よし。全部大丈夫そうだな」
◇◇◇
昼からは手が空いてる人を募って、お試し会の開催となった。
来てくれたのは、タイタニア、ワギャン、ジルバ、マッスルブにアイシャだ。
マッスルブかリュティエは呼びたいところだったから丁度いい。
もうすぐサマルカンドを立つ予定のフェリックスも誘いたかったけど、なかなか手が開かない様子。
逃げ延びた人達を一刻も早く故郷へ帰らせたい彼の気持ちは痛いほど分かる。集会場にも顔を出してないし、仕方ないよな。
だけど、帰還の目途がついたら、ちゃんと領民と共に宴会をしようと約束している。
その時まで待つしかないかもしれない。
みんなと落ちあうため、体育館前……もといプール施設前でぼーっと待っていると、すぐに全員が集まった。
「相変わらずとんでもない大きさだな」
ワギャンが真っ白い壁を見上げ、両耳をピンと張る。
「タイタニアと話をしていて、みんなで楽しみたかったんだ。やっと形になった」
「プールだよね! 水着で泳ぐってフジィが言っていた」
「……ここで脱がなくていいから、中でな」
「うん!」
タイタニアがいきなりスカートに手をかけるもんだから驚いたよ。
何も説明していない俺が悪いといえばそうなんだけど、来て早々外で脱ぐなんて思いもよらかなった。
中に入り、靴を脱いだ俺たちは入り口正面に設置してある宝箱を取り囲む。
「んじゃ、順番に水着を出していくけど、何か好みはあるかな?」
「見た事もないからな。ふじちまに任せる」
ワギャンの声にみんなが頷く。
「タイタニアは持ってきているんだっけ?」
「うん! 今着ているよ」
「だから、脱がなくていいから!」
今度は上を脱ごうとしてしまった。
確かにプールサイドでは水着だけど、下に水着を着ていると分かっていてもドキリとしてしまうじゃないか。
んじゃ、まずは……ワギャンの水着からいくか。
◇◇◇
タイタニアとアイシャの二人と別れ、残ったメンバーで脱衣所(男用)に向かう。
ジルバとワギャンは色違いの水着にした。
白と緑の横シマがワギャンで白と赤の横シマがジルバだ。
彼らの水着は幼児が着るようなものに近いデザインになっている。
ノースリーブで下は太もも上くらいまでの長さになっている水着で、頭から通して一枚で着るタイプのものだ。
んー。
思った以上に似合う。
もう、俺のモフモフ心が抑えられないくらいに。
一方、ワギャンらとは対照的にマッスルブの水着は布が少ない。
彼は紫色のブーメランパンツ一枚にしたんだ。
普段から腰布に簡素なシャツだけだから、そこまで違和感がない……ように思う。
これはこれでいいんじゃないかなあ。
俺?
俺は特に特徴がない水着だ。
膝下くらいまである迷彩柄のデザインにしておいた。
「じゃあ、プールへ行こうぜ」
「ふじちま、これはどうするんだ?」
「あ、これは……そのまま持って行ってプールサイドで膨らまそう」
「分かった」
ワギャンとジルバにそれぞれ浮き輪を持ってもらっている。
プールサイドにエアポンプがあるから、それで膨らませる予定だ。
プールサイドに出ると、既にタイタニアとアイシャが来ていてこちらに手を振っている。
男連中の方が時間がかかるなんて……かなりレアな光景だな……。
お、タイタニアは淡い水色の下地に白で縁取られた南国風のカメマークが可愛らしいビキニトップと、同じ色合いでパラソルが描かれたビキニパンツが目に眩しい。
彼女はもボレロの水着を持っているけど、ヒラヒラまで持ち歩かないだろうからこっちで良かったよ。
うん、スラリとした彼女の肢体によく似あっている。
一方アイシャは白黒ゼブラ柄のビキニにした。彼女は兎タイプの獣人だけど、彼女なら毛皮っぽい柄が似合うんじゃないかなと思ったんだ。
うん、こっちも想像以上に良い。元々上着はビキニトップと変わらない衣装を着ていたから上半身に関して、肌面積的にはそれほど変わり映えはしないよな。
「ふじちまくん、少し困ったことがあるみゅ」
「ん?」
アイシャがくるりとその場で後ろを向く。
「あ、あああ。そ、そうだな。そうだった」
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