第120話 精霊
ゴブリンシャーマンにも話を聞いたところ、ホブゴブリンと似たような感じだったけど……奴を前にしてクラウスと顔を見合わせ、お互い微妙な顔になる。
「ワラワの美貌にオマエラが目がクラミそうになるのはワカル。ダガ、汚らわしいニンゲンにカラダは許さなイワ」
あ、あのお。
全く興味が無いんだが。勝手に盛り上がるのを辞めて欲しい……。
だいたいゴブリンと人間じゃあ種族差があり過ぎてる容姿に対する美観がまるで違う。
あと、誰にも愚痴ることができないけど、こんな言葉を復唱する俺の身にもなってくれよ!
「ふうん。キミが美しいのは分かったけど、キミだけかい?」
マルーブルク。本当に君は凄いよ。
いけしゃあしゃあと真顔でよくそんなこと言えるよな。
「ワラワがもちろんイチバンよ。だけど、巫女達は皆美しイ。オスはワラワ達のキョウミを引こうト、ヒッシなノヨ」
「必死なのよ」って復唱する俺までしなを作ってしまったじゃねえかよ……。
「へえ。ゴブリンの男達は節操が無いからね。本当に美しさから取り合っているのかな」
マルーブルクの挑発に分かりやすく激昂したゴブリンシャーマンは金切り声をあげ、頭をブンブンと狂ったように振るう。
「ニンゲン、ニンゲン、ニンゲン! ニクいがワワラ達の種には必要な醜いシュゾク!」
「子供を産めるからね」
「嘆かわしイ! ダガ、もう要らナイ! オマエラ、ニンゲンの苗床などもう要らなイ!」
「おや? そうなのかい?」
「ワラワラ美しい巫女が、他にもオンナが産まれヤスイ種もイル! ワラワらはキョウシュ様によって醜いニンゲンから解放サレタのダ!」
マルーブルクがうまく誘導してくれたおかげで重要なことが聞けた。
間に入る俺の精神力がかなり削られたけどな……。
このゴブリンシャーマンの個人的な見解の可能性も多分にあるが、そこまで的外れなことは言っていないのではないかと思う。
ゴブリンらは種の保存のために、いやいやながらも(こいつらから見て)ゲテモノである人間を犯していた。
しかし、進化したことでゴブリンにメスが増え、ゴブリンの中で種族の維持ができるようになったってわけか。
といっても、奴らにとって人間はまだまだ必須の存在という認識は変わらない。
人間は小麦を生産する奴隷種として生かさず殺さず維持すべきというのが奴らの考えだ。
言いたいことを言い切ってスッキリしたのか、ようやくゴブリンシャーマンが落ち着いてきたようだ。
しかし、俺にはもう一つ確かめたいことがある。
「ゴブリンシャーマンさん、君は巫女だけに魔法や魔術ってのは使えるのかな?」
「もちろんヨ。精霊術を使えル。驚いたデショ」
「おお! とっても驚いたよ。使ってみせてくれないかな」
棒読みでお願いしてみると、得意気に鼻を鳴らしたゴブリンシャーマンが、右腕を動かそうとする。
が、縄で縛られているから動けない。
「ちいと待ってろよお。縄をほどいてやるからな。だが、下手なことはすんなよ」
「そうだね。逃げ出そうとしたりこちらに害を及ぼそうとすると、クラウスかヨッシーがキミを犯すからね」
え、ええええ。
待ってくれ。
ほら、縄に手をかけたクラウスの動きも止まってしまったじゃないか。
しかし、クラウスは俺の顔をチラリと見やるといい笑顔でウィンクをしてきた。
こ、こいつ。
「ミニクイ、好色な目をしたニンゲンめ……」
ゴブリンシャーマンはクラウスが縄をほどいている間、呪詛を呟き続け俺を睨みつけていた。
俺なの?
俺がゴブリンシャーマンに欲情してるとか、酷い勘違いだ。
「それじゃあ、精霊術を見せてもらおうか」
ゴブリンシャーマンに目を向けると、奴は一瞬だけブルリと肩を震わせ、恨みがましく俺へ刺すような視線を送る。
身の危険を感じても気丈に振る舞うとかいらないからな!
疲れる。
態度はともかく、奴は素直に精霊術を使ってくれそうだ。
腰から吊り下げた小袋に手を突っ込み、中から小さなすり鉢と小瓶を取り出す。
続いて小瓶の蓋を開け、透明な液体をすり鉢に注ぎ込む。
「水かな」
「水とワラワの唾液、そして、これダ」
ん、虫の角か。赤色でどこかで見たような……。
あ、あのやたら辛いカブトムシの角かな。
ゴブリンシャーマンは指先でカブトムシの角をすり潰し、すり鉢にパラパラと振りかける。
次に奴は手のひらの上にすり鉢を乗せ、目を閉じた。
「火の精霊ヨ。情熱をココニ」
お、おお。
すり鉢から赤色の炎が湧き上がった。
握り拳くらいの大きさだけど、自然現象ではないことがハッキリと分かる。
「魔法と似た感じかな?」
内心のワクワク感を必死で押し殺し、マルーブルクへ問いかけた。
「うん。エルフが使う魔術に似ている」
「魔術や精霊術には何らかの媒体が必要なのかな」
「媒体が必要のない魔術もあるよ。でも、総じて多少生活を便利にする程度さ」
「多少……多少ねえ……」
グバアのグバア水爆や竜巻は何も無いところから突如出現したんだよな。アレも魔法の一瞬なんじゃ……。
「小さな炎を灯したり、コップ一杯の水を生み出したり……そんな感じさ」
「コップ一杯……」
「警戒する気持ちは分かるけど、キミやあの青い鳥みたいなのはそうそういない」
いたら困るわ!
さりげなく俺を含めるのもやめような。
しかし、俺の想像するファンタジーな魔法と比べて随分と地味なんだな。
ファイアボールやヒールくらいをイメージしていたんだけど。
いや、魔法なんてしょぼいし大したことないと思い込むことは危険だ。
竜人や魔族なんて種族もいるし、現に魔族はガーゴイルを魔力で動かしていたじゃないか。
ただ単に人族周辺に住む種族だけが極端に魔法を苦手とするのかもしれない。
「俺が聞きたいことはだいたい聞けた。二人は?」
「そうだね。グラーフの街の人を救うに有用な情報はもう集まったかな」
「俺も特にねえな」
三人で顔を見合わせ、頷き合う。
さてと。じゃあ、戻るとするか。
踵を返した時、むんずとクラウスに肩を掴まれる。
「ん?」
「こいつらをこのまま放置でいいのか?」
「あ、あー。そうだな」
プライベート設定で囲っているから逃げ出すことは不可能だけど、俺たちの動きをずっと観察することはできるんだよな。
いや、それよりなによりトイレもない荒地の上に放置していたら……。
想像し怖気が走った。
ダメだ。このまま放置することは俺の精神衛生上よろしくない。
こいつらにトイレを教えて、ちゃんと用を足せるようにしなければ。
これは決してゴブリン達に良い環境を与えてやろうなんて優しさから来ているのではない。
あくまで俺のためだ。ゴルダに余裕が無かったらトイレ無しも辞さないけど……。
「こいつらの小屋を作る……」
タブレットを出し、適当なクラッシックハウスを見繕うとするか。
むしろ壁とトイレだけでもいい。
えー。あー。
お。
『名称:プレハブ
サイズ:縦三、横四
価格:千五百ゴルダ
付属品:トイレ、簡易ベッド』
『名称;ダンボールハウス(真)
サイズ:縦三、横二
価格:七百ゴルダ
付属品:無』
ダンボールハウス(真)はもはや家と呼ぶには厳しい外観をしている。
これ、ダンボールを立てて置いただけだろ……。
電気や宝箱が無いのもちょうどいいから、プレハブにしておくか。
「んじゃま。あ、ホブゴブリンをもうちょい右に。ゴブリンシャーマンは一歩左に」
ホブゴブリンはクラウスが縄を引っ張って移動させ、ゴブリンシャーマンには自分で動いてもらった。
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