第119話 尋問だー
突拍子もないガーゴイルの発言に困惑する俺は、博識なマルーブルクへチラリと目をやる。
しかし彼は、軽く首を振るだけで『魔導王』なる人物に心当たりが無いようだった。
マルーブルクも知らないなら、公国では一般的なことじゃあないってことか。
ならガーゴイルに根掘り葉掘り聞くしかない。
知ってます感を出したかったけど、知らないことを知っているフリをして墓穴を掘るよりはマシだ。
「魔導王? 知らないな」
素っ気なく興味無さ気にガーゴイルへ言葉を返す。この態度が現時点で最善。
上位者だから下々のことなんぞ知らないって暗に示すことにしたってわけだ。
対するガーゴイルは腕をあげ……れてない!
何か喋ろうとしていることは分かるけど、奴は急に糸が切れた人形のように地面へ崩れ落ちた。
「魔力切れだぜ。兄ちゃん」
そう言いつつも未だにガーゴイルから目を離さないクラウスが、念のためか半歩前に進み出る。
「そ、そうか……」
「ワギャンに斬られたことで、コアへの魔力供給が遮断されたんだろうよ。餌を喰わなきゃ腹が減って動かなくなるってな」
ふむふむ。
そういうことか。なら無理に平伏なんかせず、エネルギーを温存すりゃいいのに!
結局、何も分からないままガーゴイルは活動停止してしまった。
「ガーゴイルって、魔力で動く操り人形みたいなものかな?」
マルーブルクとクラウスの話から想像するに、ガーゴイルってドローンより遥かに便利なラジコンみたいなものだろう?
見聞きでき、あまつさえ喋ることができるとは、なんて便利な人形なんだ。
「そうだね。ガーゴイルは魔族の目となり耳となる魔力で動くゴーレムみたいなものさ」
「稼働時間とか分かる?」
「魔力切れになるか、コアが破壊されるか……あとは操っている魔族が死亡しない限り止まらないね」
「べ、便利過ぎるだろ、それ」
「うん。だから魔族は厄介なんだよ」
公国や帝国が必死こいて戦っても、魔族はガーゴイルを派遣するだけで安全地帯でヌクヌクとしているってわけか。
ガーゴイルの生産速度と量によるけど、生身で戦わざるを得ない人族の国では情勢が厳しいだろうなあ。
一つだけ分かったことは、魔族も明確な意思と判断力を持つってことだ。
本能的に人族の国を襲っているのかもしれないけど、彼らにもきっと何らかの理由があると俺は確信している。
「良辰様の魔術で編んだ魔道具も魔力で動いておりますの?」
拡声器へ目を落とし顎に指先をつけたフェリックスがこてんと首をかしげる。
「あ、まあ、そうだな」
「やっぱりそうですのね!」
は、ははは。
みんなには電気のこととか説明していないからな。全部魔力ってことになっている。
渇いた笑い声を出し、頭をぼりぼりとかく俺であった。
「動かなくなったんなら仕方ない。次に行こう」
誤魔化すように左右に首を振る。
あからさまな話題転換だったが、これ以上突っ込みを受けることは無かった。
「どっちから行く?」
クラウスが剣先をホブゴブリン、続いてゴブリンシャーマンへと向けた。
どっちからでもいいんだけど……マルーブルクへ目を向けたら彼は大げさに肩を竦めるだけだ。
「どっちでもいいんじゃない?」
「だな」
軍の部隊長と宗教組織の一員か。どっちの方が情報量を持っているのかって言うと……どっちもどっちだ。
なら、ホブゴブリンから行くか。
理由? シャーマンは金切り声を出すからだよ。
耳がキンキンして仕方ない。
◆◆◆
クラウスの部下が縄で縛ってから、ホブゴブリンへ水をぶっかける。
奴はすぐにうめき声をあげて、覚醒した。
「起きたか?」
「人間!」
ホブゴブリンは、地の底から響くような恨みのこもった声で呟く。
「俺には藤島良辰って名前がある。お前らには名は無いのか?」
「舐めるな。人間。ゴブリンは一つ。名など無いのだ」
ん、その割には何だか含んだ言い方だな。
毎度のことであれだけど、ちゃんと復唱をしている。急ぐ時は別だけど、尋問ならゆっくりと行うことができるからな。
おや、マルーブルクが天使の微笑みを浮かべているではないか。
「ふうん。キミはまだ名をもらえるほどじゃあなかったってわけかあ」
伝えるの? それ、俺が……。
ボソボソとマルーブルクの言葉を復唱したら、ホブゴブリンの表情が一変した。
「……! 何故分かった!」
「あはは。やっぱりそうなんだ。察するにホブゴブリンから更に進化した種がレッドキャップやゴブリンキングなのかな」
「お前、レッドキャップや王に会ったのか!?」
「そうだねえ……」
プイっとマルーブルクはホブゴブリンから背を向けてしまう。
彼は俺にウインクだけして、後は任せたって態度で示す。
彼とホブゴブリンが会話しているけど、間で俺が復唱していることは言うまでもない。
マルーブルク。いいアシストをありがとうな。
ここで彼が口をつぐむことで、ある程度ゴブリン達の事情をこちらも知っていると勘違いさせることができるってことか。
逆に俺は知らない
「さて、ホブゴブリンくん。君は人間のように小麦を産み出すことができないわけだが」
「何を言いたい?」
「いやあ。君が見た通り、ここには大量の小麦がある。もっとたくさんの小麦が欲しいわけなんだよ」
「俺様ももっと小麦が欲しい」
「うんうん。だからさ、君は要らないのは分かるよね?」
「……殺すのか?」
「いやいや。そんなことはしない。君を殺しても小麦は増えないだろう?」
俺が何を言わんとしているのか理解できない様子のホブゴブリンである。
いい傾向だ。
「グラーフの街に沢山人間がいるだろう?」
ここで俺はホブゴブリンではなく、マルーブルクへ目を向けた。
察してくれている彼は、俺と目が合うと頷きを返してくれる。
「よく知っているな。俺様達は今までのゴブリンとは違う。人間どもを働かせる為に殺すことはあるが、人間は生かす」
「そうだよねえ。だって、人間は小麦を産むからね」
「そうだ。小麦を産む。子供も産む」
子供って言葉に肌が泡立つが、表面上は平静を装う。
「まだ分からないのかい? ホブゴブリンくん?」
子供に言い聞かせるように問いかける。
しかし、ホブゴブリンはまだ理解できていない様子だ。
「いいかい。ホブゴブリンくん。俺は小麦が欲しい。だから、人間が欲しいんだ」
「人間は街にいる。ここにはいない」
「そうだね。そうだよ。だから、俺に必要ない君と人間を交換できないかなっと思ってさ」
「王に聞かねば分からない」
「しばらく君にはここにいてもらう。なあに、食事は出すから安心して欲しい」
「小麦を寄越せ」
「パンをあげるよ。これでいいかな?」
「分かった。ここにいてやる」
こいつ、自分の立場ってもんを分かっているのか?
まあいいか。これだけ図太い方が御しやすいだろ。
ホブゴブリンがペラペラと喋ってくれたおかげで、得たい情報を知ることができたから良しだ。
ゴブリン達はむやみやたらに人間を殺さない。奴らは人間に対し「小麦を産む財産」と認識している。
自分の命と天秤にかけたら放り投げて逃げるだろうけど、少なくとも俺たちが街に攻め寄せたからといって「人間どもを皆殺しだー」って事態にはならないに違いない。
「マルーブルク、クラウス。俺が聞きたいことは聞けた」
「ボクもこれで十分かな」
よし、次はゴブリンシャーマンだ。
ホブゴブリンの言っていたことと整合性があるかどうか確かめて、情報の正確性を検証しなきゃな。
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