第107話 パネエッス!はうるせえ!
『パネエッス! パネエッス!』
ハトがワギャンを乗せて飛んでいる。実際に羽ばたいて浮き上がるまで半信半疑だったけど、本当に飛べたんだ……。
飛行テストをやると知った他のみんなもスタジアムに集まっていた。
せっかくだからここでこのまま作戦会議もやってしまおうかな。
リュティエが上を見上げたままあんぐりと大きな口を開けている。鋭い牙がチャームポイントだ。
「素晴らしいですぞ! さすがはふじちま殿の使い魔だけあります!」
力一杯両手を打ち合わしたリュティエは、感動にむせび泣きそうな勢いである。
しかし、使い魔ってところは否定したい。
ハトのやつは断じて俺のペットではないのだ。
あれはグバアのモノで、俺は餌をやっているだけ。
「空からの偵察をやれないことはないね」
リュティエと異なりマルーブルクは含んだ言い方をし、顎に人差し指を当て首を振る。
んだよなあ。
俺もそう思うわ。
「確かになあ。ワギャンの身は安全だろうが……」
クラウスも意見を同じくするみたいだな。無精髭を手のひらで触りながら、微妙な顔をしている。
『パネエッス! パネエッス!』
そんな中、ハトの声がひっきりなしに耳に届く。
「これじゃあなあ……」
ハトの奴、意外なことにワギャンの指示にちゃんと応じて的確に動くんだよ。
そこまではいい。
しかしだな……。
俺は大きく深呼吸をし、息を吸い込んだ。
「うるせえ! ハト! 静かに飛べねえのか!」
ハトに声が届くよう力の限り叫ぶ。
叫んだ後に気がついたが、拡声器を使えばよかったと後悔する。
『パネエッス!』
聞いちゃいねえ。
どうしようこれ。
「モノは使いようですぞ。ふじちま殿。貴殿の使い魔はワギャンを乗せて空を飛べるのですから」
リュティエはそう言ってくれるが、こんだけ煩いと偵察の意味無くないか?
彼の言葉を復唱しようとしたら、タイタニアが翻訳を買って出てくれた。
彼の言葉を理解したクラウスとフレデリックが目配せし合い、意見を同じくしているのかなと見て取れる。
マルーブルクはハトを見上げたまま動こうとはしない。信頼する部下に任せたってところだろう。
「兄ちゃん、煩いなら盛大に騒がしくだ」
「それだとフェスの領民が危険じゃないか?」
「人質か? 確かにその心配はないわけじゃねえが……兄ちゃんの作戦の性質上、隠密行動は無理だろ?」
「確かに」
土地を購入しながら直進していくつもりだが、極力安全を確保したい。
なので、ついてくる人たちにも我が土地の中から出ないようにするつもりかんだよな。
それでもわざわざ鈴を鳴らしながら進むってのもなあ。
バサバサーッ!
ハトが地面に降り立つと共に風圧で俺の髪の毛が浮き上がる。スカートを履いていたとしたらめくれかえること必至だ。
「おかえり、ワギャン」
「ああ。思った以上に騎乗し易い。これなら振り落とされることもないだろう」
「おう。思った通りに動いてくれそうか?」
「問題ない」
ワギャンが俺に気を使って言っているのではないことはすぐ分かった。
彼の様子からハトの騎乗のことについては、彼の率直な感想で間違いない。
「おい、ハト」
『何スカ?』
「言っても無駄な気はするが、飛行中は静かにできないのか?」
『分かったっす!』
「え? できるの?」
『うっす!』
なら最初から黙っておけよ! こいつはあ。
ここで突っ込むと「指示されてないからやってない」とか言い返されるのがオチだ。
なので、何も言わないでおいてやろう。ふふん。俺の優しさに感謝しろよ。
「ヨッシー、分かってるとは思うけど言葉通りに受け取るのは危険だよ」
「うん。ハトだしなあ。話半分くらいで思ってる」
マルーブルクの助言に右腕を上げて応じる。
この後、フェリックスの領土から領民を救出する作戦についてみんなと会議を行った。
スタジアムは広くていいけど、やはり長時間の会議は屋外でやるもんじゃないな……日差しが容赦なく差し込んできて、最後の方はクラクラしてきたよ。
「さて、作戦を整理しようか」
ひとしきり話が終わったところで、みんなの顔を一人一人見やる。
「作戦名は『ふじちま降臨作戦』でよかったかな」
「それは違う! 単なる救出作戦でいいって」
「こういうのは作戦名が大事なんだよ。ねえ、クラウス、リュティエ」
ご丁寧に公国と獣人両方の言葉で二人に問いかけるマルーブルク。
これには二人だけでなく他のみんなも頷くが、俺は強引に話を打ち切った。
このことが後の悲劇を招くとは、この時俺はまだ知らない。
「と、ともかく。作戦は単純だ。フェリックス領まで大きな障害物を避けつつ俺の魔法で道を作っていく」
「うん。まずは街を目標に。街に着いたら行き当たりバッタリでいいんだね?」
「……その言い方は……状況を見てクラウスに指示を仰ぎ、みんなで協議するってことで」
うん。マルーブルクの言う通り、行ってみて当たって砕けろなことに変わりはない。
最悪、街の半分くらいの土地を買うっていう強引な手段もある。
……そういや、障害物がある場合に土地を購入したらどうなるんだろう?
街に至る道を作る際に試してみるけど、おそらく障害物は土地を買うと消し飛ぶ。
何でそう思うのかと言うと……草むらの土地を購入したら、雑草が消失し土台に変わるからだ。
土台の中の初期は草がない土を固めただけの土地である。ちょうど建築現場で建物が立つ前のようなアレだ。
この後、カスタマイズメニューから自由に床材を変更することができるって寸法ってわけ。
「あとはメンバーかな」
「まだいろいろと細かいことは決めてないけど……何とかなるだろ、たぶん」
んー。それにしても誰を連れて行くかってのは悩むところだ。
さっきからみんなの視線を感じるもの……。
「まず、最初に。先発隊は俺を含み人数を絞りたい。後続は人を運べるよう人数が欲しいかな」
「ボクも行こう」
「え?」
マルーブルクが思ってもみなかったことを言うもんだから、あんぐりと口を開けたまま固まってしまった。
「ボクがいると邪魔かい?」
「いや、今回は行き当たりばったり作戦だから、君がいてくれると助かるけど。サマルカンドは大丈夫なのか?」
「フレデリックに任せるよ。獣人との通訳はタイタニアにね」
マルーブルクの言葉が終わると、ニヒルにほほ笑むクラウスが俺へウインクをしてくる。
マルーブルク自身が自ら手伝いたいって気持ちはもちろんあるだろうけど、なるほどな……。
俺だって、言う時はちゃんと言うつもりだったんだぞ。
「フレデリック、タイタニア。サマルカンドの公国側は任せた。長くても二週間くらいかな」
「承りました。早馬の準備もしておきます」
優雅な礼を行うフレデリックとは対称的にタイタニアは俯き、何か言おうとして口をつぐんでいる様子。
マルーブルクの命令だから、言いたいけど何も言えないんだろう?
「ごめん、タイタニア。今回はゴブリン達が相手なんだ。女の子は連れて行きたくない」
「うん……」
納得いかない感じだったけど、彼女は彼女なりに飲み込んだようだった。
「獣人側はリュティエに残ってもらう。ハトに乗るワギャンはもちろん俺について来てもらうぞ」
「分かった」
他には実行部隊としてクラウスと彼の部下三人に加え、本人のたっての希望があるから道案内にフェリックスと側付きを二人連れて行くことにする。
そんなわけで連れて行くメンバーは俺を含め十人と一羽になったのだった。
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