第98話 スタジアム
いやあ、楽しかったぜ。
ついつい調子にのってサマルカンド外周を二回転して来てしまった。
シロクマは思った以上に足が速く、頑張れば自転車より速い。走り終わった後も疲れた様子がなく、公園まで戻って来たところでお帰りいただいた。
タイタニアとも一旦ここで別れ、彼女はクラウスらのところへ向かう。
俺はと言えば……祭りの準備をすべくブランコをぶーらぶーらしながらタブレットを眺めていた。
「あ、ここでやっちゃって大丈夫かな」
公園にある広場へ目をやり、若干不安になってきた。
広さってどれくらいいるんだろう? だだっ広いところを準備した方がいいのかなあ。
それより、持ち運びを考えたらどこかしらに宝箱(大)を設置したら楽になる。
「せっかくだからイベント会場を作るか」
どんなのがいいだろう。
カスタマイズメニューからパーツをスライドさせていき物色する。
「よっし、これで行ってみるか」
場所は……どこにすっかなあ。プラネタリウムと対になるような感じで南側に建築してみるか。
設置も楽々、撤去も一瞬だからお試しってことで。
なあに、ゴルダは唸るほどある。既に百万以上のゴルダが蓄積していて、毎日どんどん増えていっているんだ。
住民の誰かが丸太やら何かしら毎日寄付してくれていて非常に助かる。
うふふ。
自転車で現場まで移動し口元を綻ばせる。
あ、事前にタブレットの中で組み立ててからここへ来ればよかった。
気を取り直してまずは周囲の土地を購入し更地をレンガの床へ変更する。
その場に座り込んでタブレットからカスタマイズメニューを表示させ、建物の仮組みを行っていく。
今回使う壁材は石材だ!
プラネタリウムはコンクリート打ちっぱなしとか現代的過ぎる外観にしてしまった。
その反省点を生かし、ファンタジーな世界に似合う建物にしようと思う。
単なる広場にするなら芸がない。公園には噴水もあるし、憩いの場にするのも面白くない。
「む。むむ。案外難しいな」
楕円形になるように外周を作成して、その上に石材とレンガでアーチを……中央は広場……。
むうう。
「いよお。兄ちゃんじゃねえか。どうしたんだ? 面白い顔をして」
ハッと顔をあげるとクラウスがニヒルな笑みを浮かべ、人差し指と中指を伸ばし額に当てピッと揺らす。
気障な動作だけど、彼がやると似合うなあ。
「あれ? タイタニアがそっちに向かわなかった?」
「おう、彼女は部下と一緒に農作業を手伝ってくれているぜ? 呼びたきゃいつでもこっちにやるが」
「いや、それならいいんだよ。農業するにも水はけとか大変そうだな」
「水が無くなるよりよほどいいぜ。ガハハハ」
クラウスは彼の部下曰くクワを使わせたら右に出る者がいないらしい。
兵士としてそれはどうなんだと思うけど、物見を作った時も様子から建築にも知識が深そう。
この分だと他にも得意なことがありそうだよな? 飄々として偉そうにしないから普通に見えるけど、実はとんでもなく優秀な人だと俺は思っている。
「ん? 兄ちゃん……その顔。俺がサボってここに来たとか思ってるだろ?」
「いや、そんなことないって」
「その通りだぜ。農地の指示、歩哨への指示……などなど指示だけ出して全て丸投げしてきたからな」
「……それってちゃんと仕事してるんじゃあ……」
「まあいいってことよ。ブラブラしてたら兄ちゃんを見かけたからな。また面白えことやるんじゃねえかって」
「あ、そうだ。手伝ってもらえるかな?」
「ん?」
ここは仕事ができる無精ひげ系イケメンにもう一仕事してもらおうじゃないか。
俺の構想を伝えると、クラウスは目を輝かせ「やっぱり兄ちゃんは面白い」と俺の背中をバシバシと叩く。
「それだったら細けえところは後から手直しすりゃいいんじゃねえか。兄ちゃんの魔力は大丈夫なんだろ?」
「うん。じゃあ、とりあえず実体化させてみる」
ざっくりと型を組んだだけの建物を実体化させる。
すると、いつものごとく音も立てずに一瞬で建物が出現した。
俺の作った建物……それは、スタジアムだ。
といっても現代風のスタジアムではなく、古代ローマにあったコロッセウムをイメージしている。
外周をアーチが囲んだ楕円形のつくりをしていて、長い部分(長径)が百二十メートル。短い部分(短径)が百メートルもある。
ちょっとでかく作り過ぎたかもしれん……東京ドームが二百十メートル四方とかそんなんだった記憶だからな。
高さはローマにあるコロッセウムと同じくらいにしたいが高すぎるかなあ。五十メートルくらいあるもんなアレ……。
「うひゃー。相変わらず凄まじいな。こんな巨大建造物を一瞬で」
「音が出ないから、いつも誰かを巻き込まないか心配だけどね」
「ここなら人もいねえし、俺たちしか入ってこれないからな。しかし、こいつはワクワクするな」
「まずはどこから手をつけようか?」
「んだなあ。客席から行こうぜ。どこからでも見えるように傾斜をつけるか」
お、おお。こいつは期待できそうだ。
言わなくても客席は前からせり上がるように作っていくことを考えていたんだもの。
ここに来て俺は彼に丸投げしようという気持ちが沸々と浮かんできた。
◆◆◆
「壮観だな! これなら五千人は入るんじゃねえか」
「客席は広めに取ってるし、後は中央かな」
素晴らしい。クラウスに任せてよかった。
俺とクラウスは一番上部にある客席に座り、二人揃って悦に浸っている。
ローマのコロッセウムのようにアーチを積み上げ、二階、三階と作っていったんだ。高さは多分最上部で三十五メートル程度かな。
これまで作ったどの建物よりも高い。物見より遥かに高いってのはちょっとあれだけど……。
そんなことを考えたら、この高さからどんな風景が見えるのか居ても立っても居られなくなってきた。
「クラウス。その前に」
「お、兄ちゃん。俺も外を見たいのを我慢していたんだぜ。客席ができるまでの楽しみに取っておいたんだ」
へへへっと鼻を指先でさすり、ポンと太ももを両手で叩いたクラウスが立ち上がる。
それにつられるように俺も立ち上がった。
くるりと踵を返し、最上部の席の後ろにあるアーチへ左手をペタリとつけ……外へ目をやる。
「すげええ。やっぱ高いな!」
「おう、こいつはいいぜ!」
二人揃って歓声をあげた。
スタジアムは上から外を見下ろすだけでも楽しめる。
「あ、でもこれ……」
「ん、どうした?」
「ここから落ちちゃったら、死ぬよな」
「まあ、お前さん以外が飛び降りるのは無理じゃね?」
さらっと怖い事を言うじゃないか。我が領土内は絶対安全。だから、飛び降りても平気なはず。
だけど……試してみようなんて思わないってば。他の人にお願いする気もないし……ハト以外にはさ。
どうしようかな。
ガラスでアーチのところを窓にするか? いやでも、ガラス窓はちょっとなあ……。
窓を閉め切ったら風通しが悪くなるし、開けたら開けたで落下の危険性が。
「あ、そうだ。これでどうだ」
タブレットを操作し、決定をタップする。
出てきたのは現代社会だとよく見る金網だった。色は白。
「ん? 網か」
「そそ。金網をつけてみた。これで落ちないよな」
「おう。押してみた感じ大丈夫そうだぜ」
ク、クラウス。体ごと押し込んで金網が破れたらどうすんだよ。
万が一にも金網が破れることなんてないけどさ。だって、この金網はハウジングアプリで出したモノだからね。
絶対に壊れない。
「俺の魔術だから決して壊れないけど、少しは注意してくれよ……」
「お、
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