第99話 お祭りだー
お次は中央にあるグラウンドの整備か。
こちらは石畳にしようと思ったけど、将来的にどんなことをここで開催するか分からないので芝生に変更した。
他には細かいことだけど、グラウンド脇……実は一番下の客席は地面から数メートルを浮かせいる。
その部分を倉庫とし、演目に合わせて物を保管する場所とした。
拡声器とか双眼鏡なんかは普段から使うだろうから置いておくか。あと超大事なことが一つ、宝箱の設置だ。
何かを注文すると宝箱にアイテムが出現する。
宝箱はカスタマイズメニューの家具カテゴリーから設置が可能だ。
で、複数の宝箱がある場合はどうなると思う?
答えは、「タブレットでアイテムを注文した時に一番近い場所にある宝箱」にアイテムが出現する。
もしスタジアムの中で注文を行えば、スタジアムの倉庫にある宝箱にアイテムが出て来るってわけなのだ。便利だろ?
ここから自宅までわざわざアイテムを取りに行くとなると大変だし……。
「よっし、こんなもんだな」
グラウンドからずらーーっと並んだ客席のベンチを眺め悦に浸る。
「上に行ってもいいか?」
ってもう登り始めているじゃないか、クラウス。
うん、俺もその気持ちは分かる。
彼に続き、スタジアムの階段を登って行く。
「こいつは凄えぞ。王都にもこんな建物はないぜ!」
再び最上部に上がった俺とクラウスは満足気に芝生を見つめる。
壮観だ。三千世界あれどこれほどのスタジアムは他にあるまい。
ふふ、ふふふ。
クラウスの協力が無かったら、ここまでの作品にはならなかっただろう。匠のセンスに感謝だ。
よおし、ここなら十分な広さがあるし祭りにはピッタリだ。
「兄ちゃん、祭りにはここへ人を集めるのか?」
「いや、今回は集める必要はないかな。客席はいずれ使うつもりだけど」
「ちょっと勿体ない気もするけど……ところで、この建物は何という名前なんだ?」
「スタジアムっていう施設だよ」
「りょーかい。マルーブルク様に伝えとくわ」
クラウスはそう言って片手をひらひらと振る。
これだけの巨大建造物だ。みんな既に何かしらの反応をしていると思う。
スタジアムから出て、改めて外から見てみると……とんでもなく巨大だった……。
異世界の城がどれほどの大きさがあるか分かんないけど、少なくとも高さにおいては相当なモノだよな。
失敗したかなあ。クラウスと自重せずノリノリで作っちゃったもんな。
作ってたら楽しくなってきてさ、もう少し高く、もう一段客席を……という感じでな。
不安もあったが、夜の定例会にてみんなからスタジアムを賞賛する声が!
マルーブルクとリュティエ曰く、「住民全員が一堂に会することができる」ということが高ポイントらしい。
あと、スタジアムの名前を「ふじちまスタジアム」にされそうになったから慌てて保留にしておいた。
何でもかんでもふじちまに拘るのをやめて欲しいんだけど……そうだよ! リュティエとかリュティエとかが! 暗躍しているんだよ。
翌日はスタジアムで祭りの準備を行う。予行練習をやろうと思ったけど、みんなを驚かせるためにもぶっつけ本番にすることにしたんだ。
◆◆◆
――お祭り当日。
そして、いよいよ祭りの日がやってきた!
時刻は太陽が沈み、星空になったところ。
お手伝いにはワギャンとマッスルブ。いつものメンバーはスタジアムの客席に集まってもらっている。
「ここに置けばいいかぶー?」
「うん。ありがとう!」
懐かしの台車さんにブツを乗せたマッスルブが荷物を降ろす。
彼は力持ちだから、手伝ってくれて大助かりだ。
「じゃあ、始めるぞ! ワギャン」
「分かった」
紙でできた筒から伸びる導火線を確認。ワギャンに筒を支えてもらって、ライターをカチリと。
導火線へ火か着くと、ばちばちという音を立てみるみるうちに導火線が燃えていく。
「ワギャン、大きな音が鳴るから耳を」
言いながら両耳を両手で塞ぎしゃがみ込む。ワギャンも俺と同じように両膝を芝生へつく。
次の瞬間。
――ドオオオオン。
聞きなれた懐かしい大音量が空に響き渡る。
それと同時に空が光った。
赤色の丸がぱーっと円形に広がり、夜空に光の花を描く。
そう、俺が準備した祭りとは花火だったんだ。
「お、おお!」
ワギャンが感嘆の声を漏らし、ゆっくりと立ち上がる。しかし、目線はずっと空を見たまま動かない。
「ワギャン、二発目行くぞ。今度は連続でいってみよう」
「分かった」
フリーズしたワギャンが再稼働し、二本の筒を手に持つ。
「距離が近すぎるかもしれないいけど、やってみるか」
暴発しても、我が土地の中ならダメージを受けないし、花火はいくらでも注文できるからな。
ワギャンへ目配せし、再びライターから導火線へ連続で火をつける。
急ぎ離れる俺たち。
導火線が根元まで燃え上がった……ジジジッ筒の中で音がして。
ヒュルルルルードオオオオンと空に音が響く。
「たーまやー」
「何だそれは?」
「えっと、あの光は花火って言うんだけど、花火がうまくあがって綺麗だったら言う言葉だよ」
「そうか。次は三本やってみないか?」
「おお、チャレンジャーだな」
へへへ。
行くぜ。
三本同時は火をできる限り急いで……いや、両手に火を持つか。
ちゃちゃちゃっと導火線に火をつけ、ワギャンが筒を設置。
ヒュルルルルードオオンドオオオンドオオン!
「たーまやー」
「たーまやー」
俺とワギャンの声が重なり、お互いニヤリと笑顔を見せる。
いいな、こういうのって。花火もとても綺麗だ。
三十発の花火を発射した後、小休止することにした。
客席の最前列にいた他のみんなも呼んで、芝生の上に座り缶ビールをぷしゅーっと開ける。
つまみはフレデリック特製のポテトフライだ。
ジャガイモが公国になかったけど、フレデリックと相談し彼に作ってもらったんだ。
「おいしいぶー。これ何ぶー?」
「ジャガイモという芋を使ってるんだ。おいしいのはフレデリックさんの腕前だな」
手でぐわしと掴み、そのまま口に運ぶマッスルブへ目を見開きつつも、彼に言葉を返す。
あれ、揚げたてで熱々なんだけど……平気なのかな。
「藤島様よりジャガイモを多数頂いております。まだまだ揚げておりますので遠慮なくご賞味ください。藤島様、ありがとうございました」
体を真っ直ぐに伸ばし、腕を胸に当て優雅な礼を行うフレデリック。
白い髭とオールバックの髪が様になっているなあ。俺も歳をとったらこんな風になりたい……無理だろうけどな。ふん。
いいんだよ。どうせ俺は男前じゃないし。
ここにいる男どもはみんな顔面偏差値がやたらと高い。美少女で高級なフランス人形のような王子様であるマルーブルク。
無精ひげがやたらカッコいいニヒルなハリウッド俳優風のクラウス。そして、白髪の執事風が素敵なフレデリックだ。
彼らと比べるもんじゃない。うんうん。俺は俺、何だか少しだけ悲しくなってきた……。
「どうしたの? フジィ」
「ん。いや、タイタニアこそ大丈夫か?」
俺に話しかけたはいいが、アツアツのポテトフライを欲張って口にいれたからかタイタニアがむせていた。
「う、うん……」
急いでビールじゃなく水を飲んだタイタニアがてへへと困った顔で頷く。
「はははは」
「も、もうう。わたし、食いしん坊じゃないんだからー」
「そ、そうか」
彼女を見ていたら、くだらないことを考えていた自分が恥ずかしくなってきた。
よおし、花火大会第二部をそろそろ始めるとするか。
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