第83話 柵
北側の秘密基地を後にして、今度は南側に向かう。
こっちは公国のゲートに合わせた感じでと考えていたんだ。となると……。
「次はどんなのになるのかな」
タイタニアは新しくできた赤煉瓦の我が土地を見やりワクワクした様子だ。
前回の反省から、今度は全部構築した後で実体化させるつもりである。
土台は白の石柱がよいかな。ゲートはギリシャ風の円柱だったから、色合いも合わせるのがよいだろう。
モニュメントになるのは、戦乙女とかどうだ。この像は美しさもさることながら、金属鎧を着て槍と盾を持っていることで勇壮さも感じさせる。
白い石から削り出したような彫刻で、長い髪が風になびいている様子がうまく表現されていると思う。
よし! 大きさも丁度いいし、これにしよう。
石柱に隠し扉を取り付けて、中はパネルのようなLEDと銀色の未来的な机と椅子にした。
「よっし、これで」
決定をタップすると、いつものごとく音も立てずに一瞬で建築物が現れる。
「素敵だね! 女神様だけど、カッコよくて。強くて美しいって感じ!」
「うん。護ってくれそうだよな」
顔を見合わせにまーっと頷き合う。
戦女神の像はどことなくタイタニアに似ている気がしなくもしなくはないが……ある一部分が如実に違う。
「どうしたの? 目線を落として」
「ん。いや、何でもない。行こうか」
自転車にまたがり、東端を目指す。
◇◇◇
東端の鳥居前まで来ると、マッスルブとうさ耳のおっぱいがぷるるんした女の子が俺たちの姿に気がついた様子で、手を振ってこちらまでかけてきた。
うさ耳の子とは一度会ったことがあるような……。
「フジシマ!」
「ふじちまくん! こんちにはみゅ」
あ、思い出したよ。マッスルブと同じく特徴的な喋り方をしかと覚えている。彼女は確かアイシャという兎タイプの獣人だ。
彼女は動物の毛皮で作ったブラジャーぽい上と短いスカートみたいな腰巻を着ていた。野生的な格好だけど、この前と毛皮の種類が違うのかな。記憶が曖昧で。
それはともかく、二人がいたことは幸いだ。
「こんにちは。ブーちゃん。そちらは?」
タイタニアがブーちゃんことマッスルブに指先だけを左右に振って挨拶する。
こういう仕草って何だか女の子独特でほんわかした気持ちになるよね? お、俺だけかな……。
「お姉さんすごいみゅ! あたしたちの言葉が分かるなんて!」
アイシャは両手を胸の前で組んでぴょんぴょんと跳ねる。
すぐにハッとしたように動きを止めた彼女はタイタニアへ右手を差し出した。
タイタニアは出された手を握り、二人は握手を交わす。
「あたしはアイシャみゅ。よろしくみゅ」
「よろしく。アイシャ。わたしはタイタニア」
「人間さんとお話したのは初めてみゅ!」
「獣人の女の子はわたしも初めてだよ!」
きゃっきゃとはしゃぐ二人。いやあ、タイタニアも言葉がうまくなったよな。全く違和感がない。
日常会話なら問題なくこなせそうな感じでよかったよかった。
ん? なんだ、俺の肩をポンポンと叩くのは。
「どうした? マッスルブ?」
「タイタニアが武器を持っていないぶー。武器が壊れたのかぶー? それならブーが見繕って」
タイタニアへは聞こえないようにマッスルブが小声で囁く。
彼らにとって小型ナイフの一つも持たずに外出するなんてことは考えられないんだろうな……。
しかし、彼の優しさにじんわりと心が暖かくなってきた。獣人の人たちは錆びてボロボロになった剣でさえずっと使っているくらいなんだもの。
武器は貴重なものに違いないんだ。それでもマッスルブは迷わず「用意しようか」と言ったのだから。
「違うんだ。マッスルブ。武器は置いて来ただけだよ」
「そうだったのかぶー。でも、フジチマがいたらどんな武器より頼りになるぶー」
「は、ははは……」
自慢じゃないけど、俺が剣を持っていたとしてもタイタニアの体術より劣るがな! しかし、絶対安全の我が土地の中ならば武器なんて要らないのだよ。
おっと、変なことで悦に浸っている場合じゃない。マッスルブには真意を伝えておいた方がいいだろう。この分だと察することは難しそうだから。下手に心配をかけることは本意ではない。
「武器を持たないのは、獣人へ敵意は持ってないと示す為なんだよ」
「なるほどぶー!」
マッスルブは納得したように耳をびたんびたんと頭に打ち付ける。
「アイシャは大丈夫そうだけど、公国の人が獣人に接触しに来るんだ。なるべく友好的に見えるようにしたいと思ってさ」
「そうだったのかみゅー」
「そうだったんだ!」
いつの間に聞いていたのか、マッスルブの後ろからひょいと顔を出すタイタニアとアイシャ。
でも、ちょっと待って欲しい。タイタニアは意味を理解せずに武器を置いてきたのかよ。
ま、まあいいか……。
二人はマッスルブの右腕と左腕をそれぞれ掴み、こちらに顔を覗かせた状態で顔を見合わせにへえと笑いあう。
「言葉が被っちゃったね」
「うんうん」
少しだけ言葉を交わしただけなのに二人はすっかり打ち解けた様子だった。
おっと二人へ見惚れている場合ではない。
「マッスルブ。今日は牧場の囲いを作ろうと思ってここに来たんだよ」
「そういえばリュティエから聞いてるぶー」
「そっか! それなら話は早い。案内してくれ」
「分かったぶー」
◇◇◇
案内してくれるのはいいが、スタスタと枠から離れて外側へ行かないでえ。
マッスルブと彼について行く二人を呼び止めて、枠に近いところから案内してくれるように頼む。
「ここからぶー」
枠から十五メートルほど離れたところでマッスルブが手を広げる。
「了解。そこまでまずは道を作るから」
タブレットを出し、土地を購入していく。ここの道は横幅一メートルでいいかな。
道幅が広すぎて邪魔になると本末転倒だし。
街の外周より外にある我が土地は全てパブリックにするつもりだ。
パブリックでも中に入れば一応怪我はしなくて済むから、無いよりは断然よいだろ。
マッスルブの前まですぐに到着する。
「ここから真っ直ぐにこっちとこっちに伸びているみゅ」
「長方形になるような感じかな」
「そうみゅ!」
牧場は品種ごとに区画が分かれていて、一番広いサイの顔をしたカバことアルシノの区画が一番広い。
千メートル×五百メートルくらいあるんじゃないかなあ。思ったより広くて自転車を使えばよかったと後悔したほどだ。
他もそれなりに広くて八百メートル×四百メートルほどかなあ。
一方で騎乗生物たちの区画はとても狭い。聞くところによると、騎乗生物たちはそれなりに戦闘能力があるから放し飼いにするらしい。
なので、夜間に休むための広さで大丈夫とのこと。
必要な土地を全て購入し、外敵の侵入を多少は阻むことができるようにと高さ二メートルの柵を設置していく。
柵は北海道の牧場写真なんかでたまに見る木の板を横向きに並べたようなモノをチョイスした。
高さがあるから、横向きの板も下から数えて十二段ほどになる。
板と板の間は太ももくらいなら入るほどの幅があるから、小さな生物だとそのままくぐり抜けることができるだろう。といっても、大型生物なら入ることは叶わない。
大型生物なら勢いよく柵にぶち当たったら軽々と破壊できそうに見えるけど、大型トラックが当たってもビクともしないことは確かだ。
これで、中から家畜が逃げ出すこともないだろう。
入口に当たる柵はマッスルブとアイシャの指定したとおり数か所作ったぞ。
「よっし、こんなもんかな」
パンパンと手を叩き、完成した柵を満足気に眺める。
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