第82話 モニュメント
タイタニアと夜遅くまで話をしていたらすっかり遅くなってしまった。
起きた時には既にワギャンの姿が無く、タイタニアがコポコポとコーヒーを沸かしている姿が目にとまる。
朝食はサクッとハニートーストだけで済ませ、ゆったりとした革張りのソファーに腰掛けた。
「コーヒーありがとう。美味しいよ」
「うん! 今朝のパンも美味しかったよ!」
タイタニアのにへーっと緩んだ笑顔を見ていたら、目玉焼きくらいは作れば良かったかなあと頭をカリカリとかく。
「よっし。今日は作業だ」
膝をポンと叩いて立ち上がると、タイタニアが首を傾け何か言いたげに口元を揺らす。
「ん? どうしたの?」
「急いでるの? もう出なきゃ?」
「ううん。俺の作業は昼からやっても余裕で間に合う……というよりは毎日少しずつでよい感じかな」
「じ、じゃあさ」
タイタニアがパジャマのボタンに手をかけ……。
これなんてデジャブ?
「ちょ、ここで着替えなくて部屋で」
「着替えるんじゃないよ!」
にこおっと笑顔を向けられても……手が止まってないんだが!
アセアセとどうしようと思っているうちに彼女はパジャマのボタンを全部外してしまって、パジャマの上着を脱いじゃったんだ。
う、うお。
焦って後ろを向いたが、更なる衣ずれの音が。
ぽんぽん。
肩を叩かれる。
「こっち向いてー。えへへ」
「……朝からそんな……」
変な妄想がわいてきて戸惑っていたら、タイタニアが前に回りこんで来て、上半身を屈めた状態で首だけをあげて俺を見上げてきた。
「あ、な、なるほど」
「どうかなー?」
「立ってこっちを向いてみて」
「うん!」
片手を腰に当て、背筋をピンと伸ばすタイタニア。
淡い水色の下地に白で縁取られた南国風のカメマークが可愛らしいビキニトップと、同じ色合いでパラソルが描かれたビキニパンツが目に眩しい。
彼女のスラリとして凛とした佇まいによく似合っていると思う。
昨日二つの水着を出したんだけど、彼女はこちらをいたく気に入っていたんだ。俺がもっていてもアレだから、彼女に進呈することになった。
下着代わりに着てくれているのかな? それにしても、何か一言でも言ってから脱いでくれよ……。
「水遊びをしない時でも、水着って着ていてもいいのかな?」
タイタニアは嬉しそうに子供っぽくその場でくるりと回転する。
その仕草から彼女は余程水着を気に入ってくれたんだなあと分かり、口元が緩みっぱなしになるぜ。
「うん。下着代わりにしてもいいと思う」
「そうするね! 洗濯してもすぐ乾くのかなあ。えへへ」
「あ、それなら。昨日出したもう一着の水着も持って行っていいよ」
「え! ありがとう! でもあれ……わたしには可愛すぎると思うんだ」
「そうかなあ。似合うと思うよ!」
「じゃあ、もらっちゃうよ! やった!」
もう一着はボレロ風のピンクの花柄をしたビキニなんだ。トップは、肩を覆うようにボレロぽい布生地がはおる感じで胸の中央で結ばれたデザインをしている。
下は太ももの付け根辺りまでの長さの同じようにヒラヒラとしたボレロ風の布を腰に巻く感じだ。
可愛らしいデザインだと思うけど、タイタニアの内面に近い気がして良いと思うんだよね。二着出した時、彼女はこっちの水着を選ぶと思ったんだよな。
「あ、これから出かけるんだけど一緒に来る? マルーブルクの許可はもらってるんだ」
「うん! マルーブルク様がそう言うならフジィについて行くのがお仕事だと思うから」
「おう」
「それに……そっちの方が楽しいもん!」
面と向かって言われたら照れるだろ。思わず顔を逸らしてしまったが、その間にも彼女は二階へ着替えに行ったようだ。
さて、俺も着替えるとしますか。
黒のジャージから黒のジャージにな。
「あ、タイタニア! 武器は置いて行って欲しい」
二階へ向けて声を張り上げる俺なのであった。
◇◇◇
これから向かうのは獣人エリアになる。
彼らが外に出ている東側のゲートが目的地だ。っとその前に南北から行かないと。
ちょっとやりたいことがあってさ。
自宅を出てタイタニアと一緒に北へ真っ直ぐ進みT字路に到着した。
「どうしたの?」
「ここにとある物を作ろうと思っているんだ」
「へええ! どんなのなの!」
目を輝かせるタイタニアへ「見ててくれよ」と伝えタブレットを出現させる。
ここは公国と獣人の境界線だからどんな建物にするか迷ったけど……北側は和風にしよう。
まずは道の外側へ五マス×五マスの土地を購入して、床材を和風の石畳に変更して決定をタップ。
お次は、カスタマイズメニューから石造りのブロックを選び積み上げていく。
四メートルの正方形になるように組んで、高さは五メートルくらいでいいか。
まだ実体化はさせずに、モニュメント一覧を表示させる。
どれがいいかなあ。
『ハニワ
狐
しゃちほこ
鬼神風味
雷神・風神風味
犬
お地蔵さん風味
……』
いろいろあるけど、ここはやはり定番の狐にしようか。
首に赤い布を巻いていて、どことなく可愛いしな!
そんなわけで、狐を選んでタブレットの中に構築した石造りの台座へ乗っけてみる。
お、いい感じじゃないか。狐のサイズも三種類から選ぶことができたから高さ二メートルくらいあるモノにしてみたぞ。
「決定っと」
「少し可愛いけど、守護神さん?」
タイタニアは両手を広げて狐を見上げ歓声をあげる。
「うん、そんな感じ。しかし、これからが本番だ」
「これで終わりじゃないの?」
「おう。これは……まあ、何もないのも味気ないから思い付きで」
タブレットを再びだし、台座の修正に入る。
実はおもしろい扉を見つけていたんだよ。今回の計画にピッタリの。
件の隠し扉を正面に設置して、中は……あ、先に実体化させちゃったから入れないじゃねえか。
仕方ないので、一旦隠し扉だけを設置して実体化させる。
おっと、アクセス権を設定しておかないと。
いつものメンバー全員のアクセス権を設定して、土地をプライベートへ変更する。扉のアクセス権も同じように行った。
「タイタニア。そこへ手を触れてみて」
「うん!」
何ら疑問を抱いた様子もなく、タイタニアはペタっと石壁に手を当てる。
――ズズズ。
重たい物同志が擦れる音がして石壁の一部が左右に開き、正面の台座にぽっかりと入り口が姿を現した。
「わああ! どうなっているのこれ? フジィの魔法だよね」
「そのようなもんだ。こういうのってワクワクすると思ってさ」
秘密基地みたいでよいだろ。我ながら実際に扉が開くところを見て見たら感動した。
中はもちろん何もない空間になっている。
タブレットへ中の空間を映しこみ、蛍光灯……ではなく裸電球を天井に置く。
後は自宅にあるのと同じモニターを……そのまま設置したら見る時に屈まないといけなくなるから肩が凝りそう。
だったら、ブリキっぽい青色の机と椅子を仮置きして、その上にモニターを乗せてみる。
おっし、これでいいか。
付属品に拡声器を机から吊り下げておこう。
「これで完成だ。実体化させる」
おお、素晴らしい。
これで、ここからでもモニターを見ることができるようになった。
モニターは我が土地の中であったらどこでも俯瞰して見ることができるんだけど、見ている場所へ自動転送してくれるわけではない。
もし北側で何か起こってモニターを使うことがあったら、この秘密基地を使えば移動も短距離で済むってわけだ。
後ろではタイタニアが手を叩いて歓声をあげていた。
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