第65話 進化したハト
食後のコーヒーを楽しんでいるところで、いよいよクラウスがハトとウネウネについて語り始める。
「んー、まあ、なんだ。兄ちゃんが考えているような惨事にはなっていない」
クラウスは困ったように頭をガシガシと掻き毟った。
「一体何が……?」
「んーとな。ジャイアントワームは口のところ以外、全てハトの腹の中だ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! ウネウネはハトの十倍近く体積があるんだぞ」
「おう、だから俺も驚いてるというか呆れてるというか」
クラウスの歯切れが悪い。
本当にウネウネを全部食っちまったのか、ハトの奴……。
高速消化か? それなら、すぐに汚物を出すと思うのだが……ハトのフンなら鶏糞として肥料にはなるか?
臭いはキツイけど……。
「そんなわけで、見に行っても大丈夫だぜ」
「ハトは何をしているんだ?」
「寝てる。そのうち起きるだろ」
食べたから寝る。
うん、自然な行動だ。野生ぽくないけどさ。
ものすごく嫌な予感がビンビンする中、俺は二人と共に現場に向かう。
事件は現場で起こるもんだ……とか変なことを考えている間に到着した。
◇◇◇
いた。確かにハトの奴がいた!
クラウスの言った通り、ウネウネは跡形もなく消え去っている。緑色の体液でさえ見当たらない。
唯一残っているのが、ギザギザのついた円形の口とその周囲の草が溶けて露出した土肌だけだった。
しかし、俺の遠近感がおかしいんだろうか?
ハトのサイズが……。
ゴシゴシと目をこすり、空に浮かぶ雲を眺め、再び不気味な寝息を立てて眠るハトへ目をやる。
「ハトさん、おっきくなってる! すごーい!」
手を叩いて喜ぶタイタニア。
や、やっぱりサイズが変わってるよな、ハトの奴……。
横幅にして二倍。体積なら八倍ほど巨大化している。
今のハトが立ち上がると、おそらく俺の首元くらいまでの高さがあると思う。
翼開帳したら三メートルは優に超えてくるはず。
「分かった。じゃあ、これで」
すぐに踵を返そうとしたら、空気を読んでくれないタイタニアと目が合ってしまった。
「ハトさんはどうするの?」
「これまでも放置だった。これからも放置だよ」
「おっきくなったけど、いつものミミズで足りるのかなあ?」
「あ……」
確かにそうだ。でも、俺はハトが毎日どれだけミミズを捕食していたのか知らないんだよな。
「いつも俺と部下のところに来るから、俺が見ておくぜ。安心しな、兄ちゃん」
片手を腰にあて、もう一方の手で俺の背中をガシガシと叩いたクラウスは、任せろとばかりにニヒルな笑みをこちらに向けてきた。
「ありがとう。とんでもないことになりそうならすぐに呼んでくれ」
「おう」
「クラウス、ありがとう」と心の中でもう一度お礼を言って、今度こそ俺は元来た道を戻ることにしたのだった。
寝ているハトはもちろんそのまま放置だ。
◇◇◇
公園まで戻って来たところで、鮮やかなメタリックグリーンの襟首を持つあいつがブランコの柱の上に止まっている姿が見えてきた。
い、いつの間にここまで来やがったんだ……。
俺の姿をみとめたハトはバサバサ―と翼を羽ばたかせ、俺の前に降り立つ。
吹き飛ばされそうなほどの風圧が俺を襲い、よたりそうになった……。
といってもやはりハトは鳥だけに、あれほど巨大でも体重は軽いんだな。勢いをつけて飛び立ったんだけど、鉄柱が全然震えていないや。
「ごちそうさまっす!」
「お、おう……」
よかった。声の大きさは変わっていない。
大きくなったのは体だけなのかな。
「美味しかったっす。大きなミミズを食べたから、ランクアップしたっすよ!」
「ほう? それで一気に大きくなったのか?」
「そうっす! 良辰は無理っすけど……もう少し軽い物だったら運べます」
もう少し軽い物……人でもいいってことか。
それはそれで夢が広がるな!
「ハト。もう一回ランクアップできないの?」
「これでおしまいっす!」
残念。俺が乗ることは叶わないかあ。
クーシーの時もそうだったけど、あと一歩で……ギリギリと歯ぎしりするが、どうにもならないものは仕方ない。
ん? てことは。
「ワギャンならハトに乗っても大丈夫?」
「コボルトっすか? それならいけるっす!」
「お、おお! 一度ワギャンを乗せるところを見たい」
「いいっすよ!」
よっし。空を飛ぶワギャンとハトの姿は……あまり絵にはならないけど……ワギャンが興味を持つようだったらハトに乗ってもらうか。
ただし、我が土地の中から出ないように注意してもらわねえと。慣れてきたら外に出てしまってもいいけど、高いところから落ちちゃったら大怪我をするだろうし。
おっと、ハトに乗るワギャンの姿を妄想しているばかりだとダメだな。
「話は変わるが、二つ聞きたいことがある」
「なんすか?」
「一つは
これだけ巨大化したから、今までは定住せず適当に住処を変えていたハトをそのままにしていいか悩む。
「これからは、公園で寝るっすよ」
「うちの屋根の上でもいいぞ」
「じゃあ、どっちかで」
「あ、そうだ。雨の日はどうする?」
「屋根のあるところがいいっす!」
「それじゃあ、公園を少し拡大して屋根とベンチを作るかな」
「うっす!」
バーゴラの下にベンチってのは公園でよく見る風景だし、景観的にもよいだろう。
ただ、バーゴラではなくきちんとした屋根にするけど。
壁は作らず柱にして、平な屋根にしようかな。
「もう一つは食事のことだ。今までみたいにミミズを食べるのか?」
「うっす。でもおやつ程度っすね!」
「んー、じゃあ、家畜用飼料でも食べるか?」
「穀物がいいっす! たまに虫も欲しいっす!」
「ニワトリ用飼料で我慢しておけ。ベンチの横にでも餌箱を作っておくから」
「分かったっす!」
あっさりと了承してくれてよかったよ。
「ミミズか虫じゃないと嫌なんす!」とか言われたら大変なところだったぜ……。
どっちもハウジングアプリじゃ発注できないからな。あ、いや……あったかもしれない。
ペット用の餌の中に。
「ちょっと待っててくれ」
ハトにそう前置きしてから、タブレットを出してペットフードの一覧を見てみる。
あ、ある……。
『餌用乾燥コオロギ
餌用ミルワーム
餌用乾燥イナゴ
……』
見なかった。俺は何も見ていない。
「どうしたんすか? 変な顔をして」
「何でもない。これから屋根を作るから適当にすごしておいてくれ」
「うっす! ちょいと飛んできまっす!」
飛んでいくハトの姿が見えなくなってから、再びタブレットを手に出しどこに新たな土地を作るか物色し始める。
西側にするかな。うん。
二十マス×十五マスの土地を購入し、タブレットに土地を映しこむ。
カスタマイズモードで柱と屋根を作って、決定をタップ。
いつものごとく一瞬で現実世界にタブレットで作成した建物が出現した。
後は……ベンチに馬用の飼い葉受けでいいか。
どっちも木のぬくもりを感じさせるデザインのモノを選ぼう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます