第29話 絶好調のゴミ箱さん

 ゴミ箱は無料で一つまでなら設置できるんだけど、既に家の中に置いている。

 それ以外にもゴルダを支払って購入可能なゴミ箱もあるんだ。いくつか種類があるんだけど、みんなで使うことを想定しスーパーに置いてある回収ボックスくらいの大きさのものがいいかなと。

 

『メニュー

 ゴミ箱 大 二百ゴルダ』

 

 お高いが、見た感じスチール製ぽくて頑丈さは折り紙付きである。上側は格子状の蓋になっていて、カラスやハトに荒らされる対策がなされていた。

 いや、ゴミを入れたらすぐに消えるから……意味はないんだけど、白く塗装された外観に緑色の網状の蓋ってまんま業務用のゴミ箱なんだよね。

 日本の懐かしさが感じられる一品で、ディテールに拘ったゴミ箱をメニューに加えた何者かのこだわりが見える。

 ハウジングアプリって一体誰が何のつもりで作ったんだろう。俺が転移したことも含め、永遠の謎になることは確定的だけど……定期的に気にはなるよね。

 

 さてと、どこに置こうかな。

 水栓の近くの方が使いやすいか。草回収用の土台の隅へ水栓を設置していて、そこから一メートルほど離れたところへ置いてみるか。

 いつでも動かすことはできるしな。

 

「ワギャン、そこに置くよ。少しだけ横へ移動してもらえるか?」

「分かった」


 ワギャンがテクテクと歩き、俺の隣へ立つ。

 

 では、購入。

 タップすると、見慣れた大型ゴミ箱がでーんと設置された。

 

「これは? 何ぶー?」


 マッスルブが興味深そうにゴミ箱の横腹をペシペシと叩く。


「それはゴミ箱だよ。中に要らないものを突っ込むと即時消える」

「調理器具かと思ったぶー」

「やっぱり、食べ物のことしか考えてないのね……」

「そんなことないぶー。フジシマ。さっそく水栓を借りていいかぶー?」

「うん、君たちで自由に使ってくれていいよ」

「じゃあ、遠慮なく使うぶー」


 マッスルブはそう言い残して、ぶーぶー言いながら奥の方へ歩いて行った。

 

「ふじちま殿。この『ゴミ箱』に誤って入ってしまったら……ゾッとしますな」


 リュティエは蓋に手を触れ、目を細める。


「大丈夫だよ。生き物は消えない」

「そうですか。なら安心ですな」


 蓋を開け、試しに何か入れて見てくれと促すと、ワギャンが先ほど刈り取った草を掴みゴミ箱の中へ放り投げた。

 

『おいちいいいいいい!』

「うああああ」

「な、何事!?」


 あ、言ってなかった……。

 ひょっとしたらタイプが違うゴミ箱なら無言なのかなあと思ったけど、やっぱりうるさかった。

 声まで同じだよ。我が家にあるゴミ箱くんと。

 

 彼らには生き物と言ったけど、正確には生き物もゴミ箱に喰われる。今、ワギャンが放り込んだ草だって生命体だ。

 目に見えるサイズの動く生き物なら、吸収されないというのが正確なところ。

 

「あ、ゴミを受け取った時にゴミ箱が声を出すんだ……」

「そ、それならそうと先に言って欲しかったぞ。しかし、分かりやすくはある」

「夜中には捨てないように言っておいた方がいいですな」


 彼らは二者それぞれの反応を見せる。

 

 しかし、ワギャンは何やら考え込むように顎に手を当て鼻をヒクヒクさせながら、ゴミ箱の周りをぐるぐる回っていた。

 どうしたんだろう? 習性か何かか?

 

「リュティエ。このゴミ箱……」


 そこまで言ってワギャンは何故か黙り込む。


「どうしたワギャン? 何か気が付いたのか」

「ああ。だけど……まあいい。ふじちま。このゴミ箱には何を捨ててもいいのか?」


 ワギャンの目が怖い……。

 な、なんだ。

 遺体でも捨てるってのか。確かにそのゴミ箱のサイズなら遺体も捨てられなくはない。でも、ちゃんと埋葬して欲しい……。

 

「な、何でもいいけど……」

「お前は何か不穏なことでも考えていないか? 確かに、あまり気分のいい事ではないが」

「し、死者は……」

「何を言っているんだ? そんな冒涜なんかしないって。汚物を捨ててもいいかなと思ってね。これは君の出してくれた物だからさ」

「そ、そっか。確かに汚物を捨てるのにもいいな」


 その発想はなかった。ワギャンよ、ナイスアイデアだよ。

 ゴミ箱で汚物、汚水の処理をすることで、この辺り一帯は清潔に保たれるだろう。

 我が家が水洗トイレだからすっかり頭から抜け落ちてた。そのまま汚物を土に埋めるならまだしも、そのまんまにされたら……これだけの人数だ。とんでもない臭いになりそうだよな……。

 

「ふじちま殿。では、ありがたくここへ捨てさせていただきますぞ。すぐに全員へ周知します」

「うん。自由に使って大丈夫だよ」


 汚物にまみれなくてよかった……と胸を撫でおろしていると、マッスルブがジルバと共に大きな灰色がかった緑の鱗? の塊を二人で両端を掴んで戻って来た。

 

「おかえり」

「これ、フジシマへと思ってぶー」

「ん?」

「前食べた草食竜の鱗ぶー。ちょうど水場ができたからここで洗って渡すぶー」

「お、おお。ありがたい」


 ジルバが蛇口を捻るが、彼もリュティエと同じく逆側へ回してしまった様子。

 リュティエが「逆だ」と助言して、蛇口から水がどばーっと出てきた。

 

 慣れているのかマッスルブとジルバの手際がよい。

 みるみるうちに残った肉をこそげ落とし、後は乾かすだけになる。

 

「ここに立てかけておくぶー。乾いたら持って行ってくれぶー」

「ありがとう。マッスルブ、ジルバ、ワギャンも」

「そんなに喜んでくれるとは。また持ってくる」


 ワギャンは満足気にうんうんと頷き、マッスルブらとハイタッチし合う。

 彼らってほんと仲がいいんだな。

 殺伐とした姿ばっかり見ているから、はしゃぐ彼らに心が癒されるよ。

 

「ん? フジシマもやりたいのかぶー」

「お、おう」


 答える前にマッスルブが手を上にあげてきたので、思わず彼と手を合わせる。

 ぱちーんといい音がして、マッスルブはいい笑顔で「ぶー、ぶー」と笑う。

 

「他に何か必要なものがあるかな?」


 後ろで俺たちの様子を見守っていたリュティエへ尋ねる。

 すると、彼はううむと考え込む仕草を見せた後、口を開く。

 

「折を見て、非戦闘員を呼び寄せます。その際にまたご相談させてくだされ」

「分かった」


 この場は一旦これにて解散となる。

 

 ◇◇◇

 

 午前中でリュティエたちの事が終わったから、今度は人間側――「昼から顔を出せるよ」と部下へマルーブルクに伝えてもらうように言ったら、「明日まで待ってくれ」とすぐに返事が来た。

 組織の調整とかに時間がかかっているのかな? 本国との距離もあることだしなあ……。

 リュティエらはそういったものがなく、話ははやいんだけど……やっぱり国ともなればそうすぐには決められないか。

 

 昼食後、マッスルブたちから頂いた「草食竜の鱗」一頭分を台車に乗せ……乗り切らねえな。

 草食竜はポニーくらいの大きさがあるから、運ぶだけでも結構な量だ。これを二人で一気に全部運んできたって……あいつらかなりの力持ちだよな……。

 

 といっても、我が家まですぐの場所だから台車で二往復して家の中へ全て運び込む。

 全部宝箱に放り込んで、タブレットを見てみると――。

 

「え、えええええ!」

『十二万ゴルダになります。 はい/いいえ』


 ありがとう、ありがとう。

 俺は心の中で彼らに何度もお礼を言ってから「はい」をタップする。


 余談だが、自分の土地に生えた草を売ろうとしても『アプリで生成されたアイテムは買い取れません』と表示された。

 無限に稼げるじゃねえかとか思ったけど、さすがに甘くは無いか。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る