第12話 悪夢再び

 うおお。今回は本格的だ。

 両翼の騎兵同士が突撃しあい、がっぷり四つに組む。

 一方で中央は人の歩兵を引き付けたところで、コボルトとオークの弓兵が矢を一斉に射かける。

 人の歩兵たちは盾を頭上に構えて矢を防ぐも、何人かバタバタと倒れる。その隙にオーガたちが怒号をあげて突進。

 しかし、人側も負けてはいない。矢の雨が収まったところで、投げやりを投擲する。

 今度はオーガたちがバタバタと倒れるが、それで怯む彼らではない。すぐにお互いに混戦となり血みどろの接近戦が繰り広げられ――。

 

「……こ、これは見ているのがキツイ……」


 気分がすぐれなくなり、トイレに駆け込む。

 もう慣れたものですぐに用を済ませ戻ってきたが、余りにも凄惨な光景をこれ以上見ていられないのでモニターの電源を落とした。

 

 外から聞こえてくる悲鳴や怒声へ耳を塞ぎ、じっと時が過ぎるのを待っていると……モンスターの布を切り裂くような声と太鼓のような重低音が響き渡る。

 これはきっと歓声だ。

 

 急ぎモニターをつけると、騎兵同士の戦いは数で勝るモンスター軍団が勝利したようで、人の騎兵が散を乱して潰走していく。

 それを見て不利と悟ったのか中央の歩兵もジリジリと後退し、撤退していった。

 

 勝鬨をあげたモンスターたちは、負傷者を抱えてこの場を撤収して行く。

 居座られなくてよかった……。そして、やはり死体はそのまま放置なのね。

 余裕があるなら装備くらい奪い取っていくものかと思ったんだけど……。まあいい。

 

 庭に出て辺りを見渡すと、人とモンスターの亡骸がそこら中に転がっていた。

 今回は……ざっと見た感じで三十人ほどいるじゃねえか。

 

 でも、数が多かろうと俺の実利と精神衛生のために埋葬を行うつもりだ。

 というのは前回の人の装備四人分を換金したら、八千ゴルダほどになったんだよ。

 モンスターに比べて実入りがいいなあと最初考えたんだけど、冷静になって考えてみるとたったの八千ゴルダと思い直した。

 

 だってさ、生きるか死ぬかの戦いに挑む装備が一人当たりたったの二千ゴルダなんだぞ。

 日本円に換算すると二十万円。

 これが前回の人間たちが持てた自分のために使う命の防衛費と考えたら……少ないと思わないか?

 

「日が暮れるまでに終わったらいいけど……」


 モニターで念入りに誰もいないか確認し、庭に出てから再度周辺の様子を探る。

 望遠鏡も使ってだ。

 

「動く者なーし」


 誰もいないんだけど、俺の声に反応する者があれば未だ外は危険と判断できる。

 ここに来たばかりの時は猛獣を呼び寄せないか不安で声を抑えていたけど、人やコボルト達の方が脅威度が遥かに高いと判断した。

 猛獣なら、俺に気が付くとすぐに襲い掛かって来るか逃げ出すか……いずれにしろ見通しのいい草原なら俺でも見逃すことはあるまい。

 一番警戒すべきは、一見して倒れ伏している人たちだ。

 彼らが気絶しているだけだとしたら、運ぼうと彼らに接触した際に斬られる可能性もある。なので声に反応しないかの方を取ったってわけ。

 

 慎重に土台の枠から一歩踏み出し、キョロキョロと辺りを見渡しながら遺体をモンスター側と人側に分けていく。

 二度目ともなると吐くことも無く、淡々と作業をこなしていける。

 もちろん、嫌悪感が消えてなくなるわけではないけど……。

 

 昼も食べずに一心不乱に作業を進める。タイタニアみたいに熱中症にならぬよう、頭にタオルを巻き時折水分補給をすることも忘れない。

 

 前回の墓に近い潅木へそれぞれの遺体を集め、荷物は全て芝生の上に保管したぞ。

 次は……掘る作業だ。

 人側の方が多かったから、ひたすら掘る、掘る。堀りすすめるうう。

 

「ハアハア……。二十人分とか……腕がもうやべえ……」


 休み休み掘っていき腰が悲鳴をあげているが、気合と根性で掘り切った。

 そこで、さすがに疲れ切って仰向けに寝転がりしばし休憩する。

 

「ショベルカーが欲しい……」

 

 無い物ねだりをしても仕方がないけど、辛いぞこれ。


「うおおおお!」


 謎の雄たけびをあげて気合を入れた俺は、順番に亡骸を埋葬していく。

 最後に長槍を三本突き立てて墓標も完成だ。

 

 この時点で日没を迎える。

 残りは明日、日の出と共にやろう……。

 

 トボトボと台車を押して自宅に帰る俺なのであった。


 ◇◇◇

 

 自宅の芝生の上で台車を折りたたんでいる時、俺はやってしまったことに気が付く。

 人の荷物も全部芝生の上に乗せてしまっていた!

 武器や道具は宝箱に入れて売らない限り消えることはないけど、貨幣は異なる。

 置いた瞬間にゴルダとして返還されてしまうのだー。

 

 タイタニアは貨幣だけ持って帰っていたから、人たちにとって何か持って帰るとしたら貨幣が大事なのだろう。

 で、でも、今回は生存者もいなかったし……許してくれ。

 作業に必死だった俺にそこまでの余裕はなかった。

 うん、仕方ない。仕方ない。

 

 モンスターの方は、腕輪だけ取り出して一つの袋にまとめておいた。

 残りは全部宝箱の中へ突っ込み換金だ!

 

 その結果……。

 

『現在の所持金:三十一万五千六百十五ゴルダ』


 となった。

 

 今回は前回に比べて装備が優れていたので増え方もすげえ。貨幣もとっちゃったしさ。

 モンスターの方は人の装備よりかなり安かったけど、それでもそれなりの買取金額になった。

 

 これだけあれば、半年どころか一年は余裕で生活できる。

 その間にどうやってゴルダを得るのか安全な獲得方法を模索すればいい。

 

 資金に余裕ができたので、ジャージを上下注文した、これで洗濯している間は裸にならなくてすむ。

 着ていたジャージはもう泥だらけで、血のりもベッタリついていたから捨ててしまいたかった。だけど、贅沢をしていては資金が不安なので着ているジャージは風呂場で洗濯することにした。

 

「そろそろ料理をしたいと思っていたけど……今日は無理だ」


 風呂から出てへとへとになった俺は、毛布の上で崩れ落ちる。

 このまま寝てしまいたかったけど、腹が減って仕方がない。

 というわけで、野菜ジュースとカップラーメン(醤油味)を注文する。ノソノソと食べ終わった後、ゴミ箱へ割りばし以外の出たゴミを放り込んだ。

 

「おいちいいい!」


 ゴミ箱さんの歓喜の声が聞こえてくるけど、もう意識が朦朧と……。

 

 ◇◇◇

 

 ――翌朝。

 朝日がキラキラと窓から差し込む光が瞼を刺激して、すぐに意識が覚醒した。

 目覚めは快調!

 体は全身筋肉痛でバキバキだぜ。


 コーンスープと食パン、栄養ドリンクを朝食にもそもそと食べる。トースターが欲しいこの頃です。

 いや、その前にあたたかーく炊き上げた白米が食べたいなあ。ちなみに米は五キロ購入済みだ。

 土鍋か炊飯器があればすぐにでもご飯を作ることができるんだぜえ。おかずは何にするかなあ。梅干しか鰹節なら日持ちするよね?


 想像すると涎が口から……おっと、にへえっと顔を緩めてる場合じゃねえ。

 俺の楽しいお食事ライフの為にも埋葬を終わらせねばな。


「行くぞおお!」


 大声を出し、左右を油断なくチェックだ。


「おー!」


 一人で掛け声から応答までこなし、台車を押してモンスターの遺体を安置している灌木の下までテクテクと歩く。


「掘るぞおおと。シャベルさん、出てこいやー!」


 出るも何もシャベルは台車の上に乗っておられる。

 そんなことはいいんだ。空元気でも出さなきゃ進められぬ。


「シャベルと土の戦争だー!」


 うほおおお!

 行くぜ! シャベル。俺の朋友よ。


 掘る、掘る、そして掘る。

 俺の熟練度も上がってきたようで、体重の使い方がうまくなったからか掘る速度が最初に比べ倍以上だ。

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