第2話 ハウジングアプリ

 画面を眺めているものの、まだまるで操作方法が分かっていない。しかし、コマンドの中にある「建物建築」の項目がピコピコ光っているから、これをタッチするんだなと直感的に理解できた。

 選ぶと「クラッシック」「カスタマイズ」の二種類が出て来る。

 チュートリアルさんはクラッシックを選べと指示しているから、こちらをタッチしてみよう。

 

『クラッシック:予めデザインが決まっている家。一部家具も付属しています』

 

 ほう。じゃあ、カスタマイズはどうなってるんだ?

 

『カスタマイズ:建物を一からデザインしていくモードです』

 

 試しにカスタマイズを選んでみたら、ずらーーーっと並ぶ壁材の種類が目に入りすぐに取りやめた。


「現実とはとても思えないし、夢ならすぐ覚めるだろうから時間をかけていられない。クラッシック一択だな」


 クラッシックを選ぶと――。

 おお、いっぱいあるな。外観の下に説明が記載されていて、サイズがマス数で書いているので分かりやすい。

 

『名称:丸太小屋

 サイズ:縦三、横三

 価格:五百ゴルダ

 付属品:宝箱(小)』

 

 他はっと……大きいのは五マスだと入らないし……。

 これで行くか。


『名称:藁ぶき屋根のワンルーム

 サイズ:縦四、横三

 価格:千ゴルダ

 付属品:宝箱(小)、電気、浴室、トイレ、キッチン、モニター』

 

 このサイズだと六から七畳くらいの広さになるはず。元々土地が狭いから、こんなもんかなあ。

 何より電気とキッチンがついているのが素晴らしい。できれば風呂も欲しいところだが後で建て直しもきくみたいだし、まずはお試しだな。うん。

 

 藁ぶき屋根のワンルームを選択すると画面が切り替わり、先ほどの土台が表示された。

 アイコンを動かすように藁ぶき屋根のワンルームを土台へスライドさせていき、右隅までいったところで手を離す。

 お、メッセージが出てきた。

 

『この位置でよろしいですか? はい/いいえ』


 おっけおっけ。ここでいいさ。

 「はい」を押すと、床材の時と同じく音も立てずに一瞬で藁ぶき屋根のワンルームが実体化した!


「うおおお!」


 驚きから声が出てしまう。

 いや、土地を購入した時からいきなり出現することが分かっていたけど、今回は変化が大きい。

 だって、いきなり目の前に小さいながらも藁ぶき屋根の家が出て来るんだぜ。ビックリするって。

 

 家は絵本とかで出て来るような素朴な感じの家だ。

 木の板を並べた壁材に薄茶色の藁の屋根。扉の前にはちょっとしたテラスがあって、全てこげ茶色の木で作られている。

 

 扉の取っ手もちゃんとあって、ぐりんと回転させたらガチャリと音がして扉が開く。

 

『扉には「アクセス権限」を設定することができます』


 タブレットに難しそうなことが書いてあるけど、今はいいや。とりあえず中に入ろう。


「すげえ」


 家の中はがらんどうではなく、奥にキッチンが備え付けられていた。オープンキッチンと言えばいいのか、料理をしながら部屋を眺められるようなやつだ。

 キッチンの後ろ側には窓があって、窓際に冷蔵庫などを置くスペースがある。残念ながら今はまだ何もないが。

 キッチン脇の勝手口がありそうなところに扉があり、そこを開けると水洗トイレだった。水を流したらちゃんと流れていったけど、どこに流されていくのか謎だ……。

 反対側の扉を開けたら脱衣所がなく、そのまま浴室があった。

 

 他には右手にも窓。この窓から外へ飛び出すと敷地の外に出てしまうから注意だな。

 左の壁際に一抱えほどある木製に真鍮の枠がはめ込まれた宝箱が置いてあって、その横にはこの家には不釣り合いに大きい四十型くらいのテレビが床置きされていた。

 後は、天井に蛍光灯があるくらいか。

 ちゃんと初期セットとして書かれていたものは、全て用意されているみたいだけど……テレビと宝箱は何につかうんだろう。


「まずは一通り触ってみるか」 

 

 キッチン下にある扉を開いてみたけど、中には何も入ってなかった。食器棚なんかももちろんなくて、IHクッキングヒーターぽいものとシンクだけがある。

 蛇口を捻ると水がどばーっと出たから、水道はどういう理屈か分からんが通っていた。

 部屋のスイッチぽいのを押すと蛍光灯は点灯したので、電気も通っている。

 

 不可解さが増すが、俺にとってはありがたいことだから良しとするか。余り考えてもどうにかなるもんでもないしなあ。


「宝箱はどうなってんだろ」


 開いてみたが中には何も入っていなかった。

 やっぱそうですよねえ。

 ため息と共に宝箱の蓋を閉じる。

 

「じゃあ、テレビは。お。なんか映ってる」


 藁ぶき屋根と芝生を上空から撮影した感じだが……風で芝生が揺れていることからこの映像は写真じゃなくリアルタイムなのかな。

 試しに、窓から手を出しながら首を捻りテレビを見て見たら、俺の手が映り込んでいた。

 

 一通り見たが、このままだとすぐに餓死してしまう。

 食べ物が一つもないんだもの。芝生と家だけではどうにもこうにも。

 

「駄目だと判断をするのは早計だ。タブレットを調べてみようか」


 まだチュートリアルくんが終わってないはずだし。ハウジングアプリの性能次第でこのまま引きこもることも可能だろう。

 タブレットを手に取り、画面を眺める。

 お、新しいメッセージが出ているじゃないか。


『主なコマンドは残り三つあります。一つ一つ見て行きましょう』

「おー、見て行こうじゃないか」


 画面にタッチ。

 

『主なコマンドは以下です

 一.土地購入

 二.建築・カスタマイズ

 三.注文

 四.ステータス・設定

 

 このうち二.建築・カスタマイズには「建物建築」「内装」「畑・庭」の三つのモードがあります』

 

 ふむ。建築と土地購入はさっきやった奴だな。

 一番気になるのはズバリ「注文」だ。


 画面を戻し注文にタッチしてみる。

 

『注文コマンドではメニューにあるアイテムを注文することができます。注文を行うにはそれぞれのアイテムに設定されたゴルダを支払う必要があります』


 なんだあ。やっぱりちゃんと生きる手段が用意されていたんじゃないか。

 注文リストをタッチするといろんなカテゴリーが出て来て……試しに食料品を選んでみる。

 

『食パン(一斤) 一ゴルダ

 ハム(一本) 七ゴルダ

 米(一キロ) 二十ゴルダ』

 

 ゴルダの価値はだいたい日本円に換算すると一ゴルダで百円ってところかな。

 俺の所持金は土地と家でさっぴかれ、残り千五百ゴルダ。

 しばらくは生きていけるが、ゴルダを増やさないといずれ破綻する。

 

 ゴクリと生唾を飲み込み、他のメニューを見て見ると……大型も道具以外はたいていのものがありそうだった。

 とにかく今は食料。食が確保できて初めて次がある。うんうん。

 

「そんなわけで、食パンを頼んでみよう」


 食パンを選び、注文する。

 

 ――ゴトリ。

 宝箱から音がしてびくううっと肩を震わせた小心者の俺……。

 

 確信を持って宝箱を開いてみると、食パンが一斤宝箱の中に入っていた。

 この中に注文したアイテムが届くってことは、ここに入らないアイテムは注文できないってことか。

 

 確か、家の説明に宝箱(小)って書いてたから大きくできるんだろう。きっと。

 

「食パンに水。後は眠るために毛布の一つでもあれば何とかなるか。夜にどれだけ冷えるかにもよるけど」


 毛布を注文(二十ゴルダ)し、ついでにコップ(一ゴルダ)も安かったので手に入れた。

 蛇口を捻ってコップに水を入れ……ごくごく。

 

「ぷはあ。水は普通だな。うん」

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