第3話 異世界に転生するということ①

「それで、具体的に俺は何をすればいいんだ?」


 いつの間にか用意されていた椅子に座り、いつの間にか用意されていた机を挟んで神と対面する。


「世界を救うのじゃ」

「なるほど」


 さっきも聞いた。


「世界って言っても、俺一人で何か変えられるようには思えないんだけど」


 もう敬語で話すのはやめた。協力関係にある以上、気遣いや遠回しな物言いは時間の無駄だ。


「貴様のいた世界ではあるまいて。ほれなんというんじゃったか、異世界じゃ」


 異世界……つまりは異世界転生をしてその世界を救えと。


「さっきも言ったけど、俺には力なんてない。その異世界がどんな所かは知らないけど、無謀だろ」

「じゃから言うたじゃろう。力なぞどうとでもなるわい」


 神は何か冊子のようなものをぺらぺらとめくりながら、事も無げに言い放つ。何らかの力の付与をする、ということで良いのだろうか。


「強い力じゃないと意味がないぞ。世界を救うんだ」

「分かっておるわい。その世界における上位能力を付与しよう」


 上位能力……といわれてもイマイチピンと来ない。サイコキネシスとか、いわゆる超能力的なものだろうか。


「そもそも俺はどんな世界に飛ばされるんだ?」


 異世界というだけでは情報が少なすぎる。ファンタジー映画のような世界を想像するのであれば、箒に乗って空を飛ぶことができるとか、獣が人の言葉を喋るとか、そんな感じだろうか。

 もしかして、魔法なんかも使えたりするんだろうか。


「うむ、その概要から説明せんといかんのう」


 そう言うと神は、冊子のあるページに目を留め、これじゃこれじゃと読み始める。


「説明してくれるのか」

「当たり前じゃわい。見も知らぬ世界に、何の情報も無しに放り出して何になる」


 まぁ、そう言われればそうなんだけど。なんにせよ、前情報ありで異世界に転生できるというのは有り難い。


「とはいえ、儂の数多く管理している世界の一つじゃし、そこまで詳しいわけではない。向こうである程度の情報収集をせねばならんとは思うがな」


「それくらいなら構わないさ……なんだその紙切れ」


 神が手に取ったのは、本から切り離したのか、取り外したのかしたらしい1枚の紙切れ。まさか前情報って……。


「え~……世界の名前は『ジアス』。転生先は『クォンタム皇国』じゃな。人口はおおよそ40万人程度。世界が崩壊に向かう理由は『悪しき龍の復活』。ほう、魔法のような能力があるのじゃな……以上じゃ」


 そして神は、その紙切れをもう用済みとばかりにこちらに投げてよこした。


「以上じゃ、じゃねえよ!!何の情報があったんだよ!!」

「じゃから、悪しき龍が復活しそうで魔法があるんじゃよ」

「本当にそんだけなのか!?」

「そんだけじゃ」


 嘘だろと、渡された紙を読み込んでみるが、特筆すべき点は本当にその程度のようだ。あとは面積とか現国王の名前とか、簡素な周辺国の地図とか……地方の村のウィキでももう少し情報が載っているんじゃないか。


「いや、国同士の関係とか悪しき龍を復活させようと画策している勢力とか共に戦ってくれる仲間とかあるだろ!?」

「そんな細々したもん知らんわ」

「知らんわ!?」


 全く悪びれる様子もなく、羊皮紙のようなものに何かを書き込みはじめた神。そしてこちらを一瞥し、さらに悪びれる様子もなく言い放つ。


「よいか、儂の管理している世界は貴様の世界とここだけではないのじゃ。その中の内政とかどの国が滅んでどの国が統一したとか把握できるわけがなかろう」


 言われてみれば……という気もしたが、そこを把握しておくのが神の仕事ではないのか。


「じゃあなんでこの世界が滅びようとしてるって分かるんだよ」

「滅びそうになる世界とその情報は入るんじゃよ。この世界じゃと、何も手を施さなければあと余命は1年といった所か」

「1年……」


 1年でこれだけの情報から世界を救えというのか。無謀にも程がある。


「情報を集めてからとしておれば間に合わんかもしれん。勿論、知り尽くすことはできるやもしれんが、その頃には手遅れになっておる可能性が高い。今、この瞬間がこの世界を救う最期のタイミングなんじゃよ」

「無謀だ……」

「無謀だが、無理ではない」


 神は、こんなもんじゃろ、と書いていたペンを置き、再びこちらを見据える。


「成功する確率が低すぎる。ダメもとだぞこんなの」

「うむ、正直なところダメもとじゃわ。このままでは100%滅びる世界をなんとか99%にしたい。100個の世界の内、1個でも救いたい。この世界はまだ救える可能性があるだけマシじゃ」


 救えというからには、危機的な状況に陥っているのは察していたが、まさかそこまでの状況とは思わなかった。下手したら、まごついているうちに世界が崩壊してしまう可能性すらある。


「なるほど……それで俺みたいなのを探してたってことか」


 ため息交じりのその言葉に、神はにやりと顔を歪める。


「うむ、普通は無理じゃ。そんな状況下で、それでも世界を救おうとできるものなど、そうおるものではない」


 まぁ、無理だ無理だと言っていても始まらない。誰かを救う可能性が少しでもあるならば、やってみる価値はある。



 どうせ死んでるんだ。失うものなど、何もない。



「分かった、やってみるよ。ただし、条件がいくつかある」

「申してみよ」


「よし、それじゃあまず……」

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異世界ヲ救ウモノ 早崎佑 @yu_hayasaki

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