なぜか今日は
友達が死んだ。
そいつとは別に仲が良かった訳じゃない、特に憧れていたって訳でもなんでもない。
久しぶりに来た喪服には腰の辺りに穴が空いていた。
知り合いのいない葬式で前の男を参考に焼香をする。そういえばこの友人の事を僕は深く知らない。
たまたま出張で地元に行った時、実家に帰った後新幹線が遅延してそのまま夜の街へ旅をした時に、たまたま出会った男。
寂れたバーで酒を飲んでいた男は、凄くクールでカッコいい男だった。
吸っていたタバコがラッキーストライクだったから、チバユウスケ好きなんですか?って言ったら「チバ?好きだよ、熱い男だよね」って返ってきた。そこから早かったな、あのしゃがれた声が病みつきになって、カルチャーをごちゃ混ぜにして美しくしたようなジャンキーの感性を好きになった。
ミッシェルよりROSSO派だとか、色んなくだらない無駄な話ばかりして、あっという間に時が流れていった。
外はいつの間にか日が出ていて、世間が目を覚ます番だ。
Good byeを告げる時、小さいドアから冷気が出ている。
その日から、実家に帰る時は毎回そのバーに通っていた。
数年するとたまにバイクでツーリングする程の仲になっていって、その心地よさが良いグルーブ感を生み出していた。
俺はその男に感化されてラッキーストライクを吸ったり、ギターを始めたりした。
「俺達のパンクロックヒーローのシドヴィシャスだって21で死んだんだぜ、やけに悲しむ事はないさ」俺の同僚は言った。
「こんな時にカートの歌声を聴いても荒むだけだろう?アジカンとかGReeeeNとか聴こうぜ?ハッピーハッピー!!」
「馬鹿じゃないか?ハハッ、いつか聴いてみるよ」
そんなジョークなのかどうか分からないヤク中の話を聞いていた。
その日はめったに取らない有給を使って2日ほど休日を取り、久しく乗ってなかったバイクの手入れをして荷物の準備をした。
世界の裏側までとことん見ようじゃないか、全部を知り尽くしたい。
朝、バイクに乗って、大量の荷物と共に走り出す。周りの車を観察してみたり、ふらっと立ち寄った定食屋で飯を食べて、不味いと思ってみたり。
ほんのちょっとだけ視野が広がって、リュックの中に入れたエンジニアブーツは重かった。
夜になって、テントの準備をして、空を見上げたら、星が輝いてた。
あの男はThe birthdayが好きって言ってたから、今日はそれを流そう。
彼の遺書を見た。ラッキーストライクの箱に俺宛の遺書を入れていたらしい。
「なぜか今日は殺人なんて起こらない気がする。だけど裏側には、何かある気もする」そう書いてあった。
俺はラッキーストライクの空箱と共に、遺書を燃やした。
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