エレクトリック・サーカス

そろそろ、死ぬのかな。

死刑囚になってから、何年かたった。

周りにいた、死刑囚達は、悲鳴をあげながら死んでいった。

死刑囚達のサーカスだ。

窓から見える空は、灰の色だった。


グレッチのギターで、歌う。

ベンジーに憧れて買った、八万の安いギター。

このギターで作る世界。

その世界も、どの世界も、未来は無い。

彼女の声が、頭に囁く。

俺が殺した、あの女。

俺の味方はいない、そんな事を見ずに、永遠と夢しか見れなかった。

そんな世界なんか、俺ごと滅ぼしてやる。

ギターを掻き鳴らしても、乾いた音しかしない。

お前ら、あっちの世界まで行ってやるよ。


伝書バトの飛ばない薄暗い部屋。

俺の未来は消えていった。

何も無い、概念の中で、一人沈んでた。

深い深い、海の中。

夜の海辺、彼女は笑った。

嘲笑ってるのか?楽しんでるのか?

白いワンピース、ガラスのヒール。

嫌味な程、出て行くアルペジオが、終わりのカウントダウンを迫らせる。


誰かから手紙が届いた。

「エレクトリックサーカス、くたばるなら、弦を売ってこいよ。湿った世界で待ってやる」

花の一つも咲かないんじゃ、ギターを鳴らす意味も無いか。

落ちぶれたエンジニアブーツ、痛い程輝いてる。

あと何回、ショーをすれば、明日は無くなるんだろうか。

終わらない毎日、その先に行く。


とうとう、終わりがやってきた。

グレッチのギターは輝かしく鳴り響く。

紅いグレッチ、燃え上がる空。

首にくくった終焉の幕は、金で出来ている。

最高のショーが始まる。

エレクトリックサーカスは、荒ぶりながら、ダンスと歌で、観客を湧かす。

俺らしいな。

笑いながら、床は抜ける。

何かは終わり、何かは始まる。

新しい命も、終わる命の犠牲で出来ている。


ショーは終わった。

澄み切った世界で女は待ってた。

上品な、笑顔の中で、温もりなんか感じなかった。

男と女が手をつなぐと、いなくなった。

あれだけ盛り上がった観客は、すっかりいなくなっていた。


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