日常

廃トンネルで働いてる男がいた。

とにかく廃トンネルの、奥を掘る。そんな仕事。

給料は安い、人はいない。

そこに住み込みで働いてる。

暗い部屋の中で、麦茶を飲み、休んで、働く。

廃トンネルを掘る意味なんて無い、だけど掘る。

男は掘る事が好きだった。

たまの休日には、狭い部屋の中でアコギを弾き語る。

それだけで満足する人生だった。


ある日、家を売りに来た人がいた。

「今なら、安いですよ」

男は断った。

「こんな暗い小屋なんかより、もっと快適で、お家賃も安いですよ」

男は言った。

「僕の人生はこれで満足なんだ、だからいらない」

「こんな足りない物だらけの人生で満足なんですか?信じられない」

「君には足りなくても、僕には足りるのさ」

呆れ返った顔をしながら、人は帰っていった。


またある日、宗教の勧誘をしに来た人が来た。

「あなたの人生、幸せですか?私たちと一緒に幸せを掴みましょう!」

「僕は幸せだよ、今も、これからも」

「嘘をつかないでください。神を信じない者に幸せは来ませんよ」

「ははっ、君の中ではそうなんだろうね。でも、あいにく僕は幸せなんだ。この廃トンネルで、シャベル片手に掘っている人生がね。」

「そんな無駄な事ばかりして、意味が無いじゃないですか」

「意味は無いね、でも、僕はこの仕事が大好きだ。」


日々は動き、まだ男はシャベルを持ち、掘っている。

ギターをもちながら、トンネルの中を徘徊したりもした。

湿った部屋で麦茶を飲む、一休みしたらシャベルで掘る。

そんな素朴な人生を、彼は好んでる。

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