シャロン (イマイアキノブver.)
死ねなかった、畜生。
柱が腐っていて自分の重みに耐えられず折れたらしい。
深いため息をついて、横になった。
冬の星に生まれたら、シャロンみたいになれたのかな。
あの娘は今頃、あの男の隣で眠ってるんだろう。
こんな事しても救われないって、分かってた。
サンタクロースの死んだ朝が来る。
自殺の為に、バイトをやめた。
無一文のまま世に放り出される。
飯がカップ麺しか無い。
布団の中で、うずくまりながら、寝る。
寒い日が続く。
首をくくったときは、あんなに気力が湧いてたのに。
50万で買ったホワイトファルコンは、嫌というほど光り輝いていた。
こんな時こそ、街へ出てみよう。
目を刺す太陽の光を見るのが、少しリストカット的な非道徳行為に感じて、少し興奮した。
なんだろう、ほんの昨日までは全てが快感に思えた音や人や景色が全て煩わしく感じる。
きっと昨日より前の僕もそう感じてたんだろう、僕の目が灰色になっていくのは、病院に行ったってきっと治らない。
そんな自傷行為を繰り返した所で手に入れた物は何もない。
久しぶりにライブハウスに来た。
またお酒を飲みながらライブを見る日が来るなんてのは思いもしなかった。
知らないバンドが大量の音楽を持ってきて、その数十メートル先の舞台でパフォーマンスをする。
もうちょっとで届いた世界は皮肉なほど輝いてる、僕らはきっと何かになりたかったはず。
ヒッピーファッションのアコースティックギターが、恋愛を叫んでいる。皆、恋を叫ぶか、未来は明るいから生きようぜというアップチューンを歌っている。
今日も女とホテルで熱い夜を過ごすような金髪マッシュのバンドマンは、思想もクソもない雑音を吐く。
全部嫌いだ、消えてしまえばいい。
どくさいスイッチのような事を考えて、リセットする欲求を抑えては脳内で殺した。
家に帰って、久しぶりの作曲をする。
この白く灰色の燃え尽きた世界に、何を見出す。
腐った耳と感性と、この腐った世界と俺と、ほんのちょっと反骨心。
ヘイト全開でロックをぶちかました俺は世間に殺されて、死んだ。
童貞なんか14歳の頃捨てたよ、なんて顔してる薄いロックスターになりたくなくて、変にひねくれてた時期もあった。
冬の星で生きてる俺は、冬の星に生まれたあの娘に恋をしたんだ。
ねぇシャロン、きっと僕等の生きてる世界は、酷く醜くて美しい。
そう思うと、不思議とメロディーが出てきた。
ゆっくりと、詩を書きながら、ホワイトファルコンを美しく奏でた。
男はベースとドラムを集めて、3ピースバンドを始めた。
彼は灰色の目をしていて、きっとその色は変わらない。
薄暗いボロアパートの一室で書いた詩は、同じ灰色の目をした人間を震え上がらせて、勇気付けた。
彼は30歳で死んだ。
死因は自殺。
白い銀の灰色の世界は美しかった。
シャロン
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