blue nylon shirts

その女は今日も青いシャツをアイロンにかける。

男が帰ってくる日を待ちながら。

その男女は交際関係らしい会話はしなかった。その距離感が心地よく感じたから。何も言わない、なのに愛だけは感じる。そんな関係が好きだった。

男はある日、帰ってきても女が青いシャツをアイロンにかけていない事に気づいた。

男は言った

「どうしてシャツをアイロンにかけていないんだい?」

女は言った

「あなたはどうしてそんなに青いシャツを好むの?」


「覚えていないかい?初めて一緒に服を買いに出かけた時、ふと君は青いシャツを取り出してこう言ったんだ。 このシャツ、あなたに似合うよ って」


女は笑いながらこう言った

「ありがとう、そんな事覚えてくれて」

二人は笑いながら抱きしめあった。

そのまま深い夜を過ごした。


しばらくして二人は結婚した。

結婚式でも男は青いシャツを着た。

周りには変な目で見られたが、理由を説明すると、周りの人間は笑いながら二人を祝福してくれた。


男は休日にも青いシャツを着た。

女は何も言わなかった。

ただただ流れていく時間の中、無言でも愛は確かに届いていた。暖かい時間を過ごしながら、男は新聞をひとつ読んだ。

戦争が始まるらしい、中国とアメリカが殺し合いをしていると書かれていた。日本には来ないで欲しいな、そう男は願った。


男に子供が生まれた

可愛い女の子と、男の子が、双子で。

絶対に守ると誓った、その直後の事だった。


男は兵士になった。

アメリカと中国の戦争は泥沼化し、世界規模の戦争になった。

戦争が終わるまで男は兵士でいなきゃいけない。


男は地獄の様な日々を過ごした。まるで世界が終わりを告げるかのような、地獄の底で。

女は青いシャツを干していた。男が帰って来るのを待ち望んでいた。


さらに何十年経った。戦争は終わった。

子供達は大人になっていた。

その日も、女は青いシャツを洗っていた。

軍のバスから、老けた男が帰ってきた。

女は驚いた、そして


微笑みながら

青いシャツを男に着せた

二人は抱き合った

ゆっくりと、時間が流れている中で、幸せに、笑いあった。

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