オムニバス短篇集
透明少年
シャロン
「クソさみぃ、、、」
そう言いながらポケットに手を突っ込む。
自分の息が白い。
今日は良い日になりそうだ。
灰色のジャケットを身に包み、黄色いマフラーを首に巻く。
街はカップルや家族の幸せで包まれている。
「そうか、今日はクリスマスか」
木々や看板は電飾で輝いてる。まるで夢の中にいるみたいだ。
顔が冷気で痛いが、周りの幸せな顔を見ると、生きていて良かったな、と思える。
自転車を取り出し、ペダルを踏み込む。
風で顔がさらに痛い。
着いた、ホームセンターだ。
ここは変わりなく、無機質な機械達や、ゴミ箱が置かれている。
レジ横に、さりげなくクリスマスコーナーのような物が置かれている。
俺はすっと麻縄を取り出し、レジへ持っていった
「2600円になります」
店員の声が聞こえる。
ふと思った。この店員は、今日も一人で、電車に乗り、家に帰るのだろうか。
それとも、自分の愛する夫や子供がいる中、ケーキを食べて、川の字で寝るのだろうか。
「お客様?」
「、、あっ!すいません」
意識が飛んでいっていた、危ない危ない。
そう思いながら、財布の中から3000円を取りだした。
自転車にビニール袋を引っ掛ける。
ビニール袋のガサガサとする音、おばあさん達の世間話、子供達が走りまわる音。
全てが自分の心の中に、あったかく溜まっていく。
世界は音を中心に回っているんじゃないか、そう思いもした。
ちょっとした公園で本を読む。誰もいない、小さい小さい公園。
寒いベンチの上に座る。
「きっとこの世界は幻なんだろうか」
本に書いてる一節を読む。
「幻だとしても、それはそれで面白いじゃないか」
そんなヒロトのような言葉を口ずさむ。
コンビ二に寄り、ワンカップを買った。熱燗にでもしよう。
お酒は良いものだ。飲みすぎさえしなければ、自分を受け止めてくれる。文句も言わない。
家に帰った、オンボロアパートの部屋の一室。
ワンカップを徳利に注いで、鍋に入れるのが熱燗の作り方らしいが、めんどくせぇので、ワンカップごと入れてしまおう。
暖まった鍋に蓋を開けたビンを入れる。
段々熱くなってきた。そろそろ出す頃だ。
熱燗の完成。
小さい三脚のテーブルの上に熱燗とおつまみのチータラを取り出した。
「献杯」
そう言い、熱燗を飲んだ。
「美味しいなぁ」
一人、薄暗い部屋の中で熱燗をちびちび飲む。
そろそろ始めようと思い、ビニール袋から麻縄を取り出す。
椅子を用意し、麻縄を柱にひっかける。
縄を結ぶ。
あぁ、今この瞬間、何人のカップルが熱いセックスをしているんだろうか。
今この瞬間、何人の夫婦が、子供の寝顔を見ながら、笑顔になっているんだろうか。
この瞬間、一体何人の人間が
寂しい思いをしながら過ごしているんだろう。
雪と町並みが混ざって灰色に見える、この瞬間。
悲しみと喜び、僻みや屈辱。
あいつらにこう言ってやりたかった。
生きていてよかった。
そう思いながら縄を首に結ぶ。
そろそろか。
窓から見える、電柱のそばに咲く一輪の花
初恋の相手を思い出した
ポニーテールで、笑顔の似合う
誰にでも笑顔を振りまき、誰をも笑顔にさせる
俺には光で何も見えなかった
俺は太陽を掴もうとしていたんだな
あの娘の事を考えるたび、灰色だった景色に一瞬だけ色がついた気がする。
昨日すれ違ったあの娘
ジーンズの似合う男に笑顔を振りまいてた
今頃何をしているんだろう
幸せだといいな
今もこれからも
そう思いながら
椅子を蹴った。
愛を込めて
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