Crazy Crazy

男は踊っていた。頭を揺らし陽気なステップを踏みながら。

彼は存在しているのか、それとも存在していないのか。

死と生の狭間で、ひたすら踊り狂いながら、思っている人を待っていた。

彼の中で、ベースが鳴り、ドラムでリズムを刻みながら、ピアノと一緒に空想しながら、踊る。

欲望も、希望も、絶望もなく、ただひたすら踊る。

神も、人も、何も無いこの広いダンスフロアの中で。

この男は死んでいるのか?確かめる方法は無い。

男がステップを踏むと、広いダンスフロア中に悲鳴が響き渡る。

下には人々の思いが詰まっている。

一つ一つを見ながら、彼はステップを踏む。

人々の思いに目を凝らしながら。

まだあの思いが残っているのか。ずっとずっと探している。


ある時男は見つけ出した。思っている人の思いを。

彼は床を殴った、自分の手から血が出ようとも、ひたすらひたすら殴った。

だが床は壊れない。彼の世界と、思いがある世界は違う。

彼は泣いた、この無常の世界で。

ひたすら泣いた。

このふざけた世界と、思う人に。


男が、ステップを踏まなくなった。

段々と世界は壊れていく。

どうかしてるんだ、俺も、この世界も。

世界が崩れていく、クレイジーなこの日常も、幕を閉じる。

狂った世界の中で、男はこの狂った日常も、狂った世界も、楽しんでいた。

雲の上には何があるのか。

頭を揺らし、腕を振れば、ピアノの音が聴こえる。

クレイゼー、クレイゼー、可笑しい世界だ。

笑いながら、思っている人の思いを見つめていた。

「こっちに来いよ、ダンスしようぜ。ベースもピアノもドラムも、皆お前を待ってる」


男は、遠くを見つめながら座っていた。

すると、まばたきをしたら、もう一人の男が立っていた。

「おせぇよ、へへっ」

「待たせてごめんな、待ってただろ」

二人の間でベースがうねり、ピアノの連弾は弾き狂い、二人はおかしいダンスを踊る。

このふざけた世界で、頭の可笑しい二人は踊る。手を取り合いながら、歌いあい。

意味も無く、何も無いダンスフロア。

二人の踊っている音と、世界が崩れていく音だけが、響いてた。

太陽は沈み、そろそろ世界が無くなる。

笑いあいながら、二人は寄せ合い、心と心で、踊る。



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