武蔵野エレジー
雨の降る武蔵野。
どんだけ熱くなってるライブハウスがあっても、一瞬で冷めちまう。そんな冷たい雨だった。
こんな冷たい雨の中、タバコを吸う。
シケてやがる。
こんなシケた街、それが武蔵野。
吉祥寺で今日はライブがあるんだ、そろそろ行かないとメンバーにドヤされちまう。
ライブハウスに着いた。ベースが重い、畜生。
「遅いよ~、も~集合時間過ぎてるじゃん」
ボーカルは言いやがった。
いけ好かない野郎だ、ベースの俺がいなきゃなりたたねぇのに。
「そろそろ始まるから、色々準備しといてね、ベース」
仕切りたがり屋のギターは言った。
ドラマーは何も言わなかった。
冴えないバンドだ、ボーカルやギターはナルシストでカッコばかり求める。
ドラマーは何も言わない。
ベースの俺は死ぬ気で練習してるっつうのに。
ロック業界は下火なんだよ、普通じゃ人気がでねぇ界隈で、まともにロックしても誰も見てくれやしねぇんだ。
そんな思いが頭をよぎる。
幕が上がり、ベースを弾き始める。
相変わらず高音の出ないボーカル、ちょいちょいミスが出るギター。
リズム隊がしっかりしてても、フロントがこれじゃ駄目じゃないか。
クソが、やってられない。
ライブは終わった。
まるで駄目だ、客には何も伝わらないシケたライブだ。
ベースをケースにしまい、帰りの準備をしてる途中だった。
「ベース?ちょっと話があるんだけどさぁ、、、」
「なんだよ?」
「あの、、バンド抜けてくんない?」
「はぁ?どういう事だよ」
「良いベースの人が見つかってさ、、、ウチのベーシスト、ちょっとアレだから代わりに入ってくんないかって言ったら、いいよって返ってきてさ」
「皆で考えた結果、君を脱退させることになった、ごめんね!」
無責任なこいつらに、殺意どころか、呆れ返ってなんの声も出なかった。
俺は黙ってライブハウスを出た。
外は未だに雨だ。
その日は、今まで作ってきたバンドのCDを焼き捨てて、寝た。
起きた、今日はバイトだ。
ラーメン屋のバイトがある。行かなければ。
ラーメン屋に着いた。だがシャッターはしまっている。
シャッターに張り紙がはっついてる。
閉店しました、とさ。
深いため息をついた。
ふと、二年前に出てった彼女を思い出した。
冷たい雨は無惨にも、俺の体に強く打つ。
古臭いロカビリーを聞いて、ヤケになりながら家に帰る。
家に帰るとポストには、エアメールが入っていた。そこに、たった一言だけ、言葉が書いてあった。
「結婚しました」
エアメールを破き、家の中に入る。
ヤケたばこをしながら、ベースを弾いたら、こんなフレーズが生まれた。
ばんばんば~んばばんばんば~ん、ばばんばんば~ばんば~ん。
ばんばんば~ばんば~ばんばん、ばばんばんば~ばんばん。
シケた毎日は、嫌というほど続く。
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