昼下がりの喫茶恋物語

白露

第1話 ブラックでよろしいですか?

「はぁ…」

俺は、大学に通うそこら辺にいる男子学生の白金露河(しろがね ろか)。漢字難しいよ(笑)よく友人からは「ろかちゃん」なんて呼ばれている。正直、恥ずかしい…。

そして、俺は今行きつけの喫茶店のカウンター席に座っている。ちなみに、ここのマスターはゴリゴリの…

「おっさんじゃない⁉ え? 誰?」

なんと、俺の前にはエプソンして黒髪ロングの清楚で可憐な女性(恐らく年上)が立っていた。(いつもはおっさんで見た目からしてコーヒーを淹れるじゃなくて、コーヒー豆を食べるみたいな感じなのに、今日はこんな綺麗な女性だ。バイトかな?)

「あら。おじさんってお父さんのことかしら?お父さんなら今日は腰痛で休みよ。それと、今の今まで気付かなかったなんて、相当お疲れのようね」

「え、お父さん?ってことは…娘さんか‼…あんなゴリラの生まれ変わりみたいな人からこんな可憐な女性が生まれるとは…」

女性は笑いながら

「ゴリラって(笑)確かにお父さんはガタイやばいけどね(笑)。でも、それを娘の前で言うなんて君、肝が座っているわねぇ、お父さんに言いつけるって心配はしなかったの?」

「あっ…」

俺は、思わずその場で立ちかけた。

「で、ため息なんてしてどうしたのよ?」

女性は急に俺の顔を覗き込みながら訊ねてきた。

「えっ、あっ、そ、その…」

「言いたくないなら別に言わなくてもいいのよ。気にしないでちょうだい」

「いえ、別に言いたくないってわけじゃないです…ただ…」

俺はため息交じりに答えた。

「はぁ、実は午前の授業後に彼女にふられたんです」

「あら…。ごめんなさい。嫌なこときいちゃったわね…」

「い、いえ。別に気にしないでください。自分が答えたんですから。それに彼女の件に関しては覚悟してましたから」

女性はちょっとしゅんとしてしまった。

(まずいなぁ、ここは、俺が何とかしないと)

「こ、こういう時はブラックに限るなぁ~。苦い思い出を苦い飲み物で流し込んじゃえ~」

目の前に置いてあったブラックコーヒーを一気飲みした。

「…‼」

女性はきょとんとした顔でこちらを見ていた。

「にっっっがぁぁぁ‼ブラックってこんなに苦いのか‼ってよく考えたら俺ブラック飲めないのに何で頼んだんだぁ?」

女性は、はっ!っとした顔で

「あっ、それは…」

「私が『ブラックでいいですか?』って聞いたらため息が返ってきたからいいのかなと思って…」

「あんたかぁい!」

ついツッコミ入れてしまった俺は

「あ、す、すみません。つい…」

と頭を下げた。

そうすると、女性はしゅんとしながら

「いいのよ。そもそもは私が悪いのだし、こういうことは初めてだから・・・。なんかごめんなさい。お客様に言い訳なんてダメダメよね」

と答えて顔を下に向けてしまった。

(やべぇ、さらに落ち込ませちゃった。ど、どうにかしないと…)

「顔を上げてください。それじゃああなたのせっかくの綺麗なお顔が見えないじゃないですか」

そしたら女性は、涙袋を抑えながら

「なによ、ナンパ?悪いけど他をあたってね」

少し笑みを浮かべて答えた。

(よかった。笑ってくれた)

その後、しばらく沈黙が流れた。

(客は俺しかいないから会話ないと気まずいなぁ)

なんて思っていたら、女性の方から沈黙を破ってきた。

「そういえば今日はパソコンで作業してないのね。お父さんからあなたがよくパソコンで何かやっているのは聞いているわ。ちなみに、何をやっているの?」

「俺の夢は小説家なのでパソコンで小説を書こうとしてるんです」

「その言い方だと、まだ書けてないようね?」

俺はその問いに肩をすくめ両手を広げながら

「全然です。まだ一文字も書けてません」

と答えた。

「いいのよ焦らなくて。人にはそれぞれのペースがあるから」

女性は優しく答えてくれた。

「ありがとうございます」

俺はその優しさに嬉しくてちょっと泣きそうになっていた。

「…白金露河です…」

思わずその言葉が出ていた。俺も無意識だったから最初は気にしてなかったが、少ししてから、名乗ったことが恥ずかしくなり狼狽しながら

「あっ!そ、その、す、すみません‼今の聞かなかったことにしてください‼」

そして、しばらくして、(実際はすぐだろうけど俺はあまりのパニックに時間感覚がおかしくなりつつあったため、長く感じた。)女性が口を開いた。

「さおり」

「…えっ?」

俺は耳を疑った。

「え?もう一度言ってもらってもよろしいでしょうか?」

「だから!さおり!私の名前!」

「漢字は桜に織姫の織で桜織よ」

桜織(さおり)さん。彼女の名前。俺は何だか嬉しくなっていた。何故か分からないけど。

「桜織さんかぁ、いい名前ですね。顔も名前の響きも綺麗です」

「なによぉ、もぉ(笑)あ、もしかして、ろか君は出会った女性全員にそんなこと言っているのかしらぁ?」

「い、いえ。そんなことしませんよ…」

「ほんとかしらぁ?ふふっ、冗談よ。でも、ありがとう綺麗って言ってくれて」

桜織さんは満面の笑みで言ってくれた。俺はその笑顔で何かに落ちたような感覚になった。

すると、急に腹の虫が騒ぎ出した。

ぎゅるる~。

(あ、やっべ、腹がなっちまった)

俺は赤面した。すると、桜織さんがくすくす笑いながら

「もう一時よ。お昼ご飯はいつもうちで食べているのよね?今日はいかがいたしましょう?」

と尋ねてきた。俺は微笑みながら

「今日はオムライスって決めてました」

桜織さんはすぐにカウンターの隅で準備してくれた。

「はい。お待たせしました。オムライスです」

白いシンプルな平皿の真ん中に綺麗にまとまったオムライス。その上にはケチャップでハートマークが描かれていた。

「いただきます」

俺は無心に食べ始めた。オムライスは、甘くてアツアツでふわふわして優しい味だった。

これが俺と桜織さんとの出会い。そして、周りを巻き込んでの恋物語が開演した。

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昼下がりの喫茶恋物語 白露 @shiratuyu0119

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