お嬢様は本を読む

「まずは基礎から教えるけど、レティア。魔法が発動するまでの3つの工程は知ってるかい?」


レティアが魔法を教えてもらうよう頼んだ次の日、早速シール家の中庭にてレティアの父であるメロウの授業が始まっていた。


「お母様に以前聞いたのでなんとなくは。えーっと、まずは体内の魔力を発動する魔法の属性に変化させる。次に発動させる体の部位に魔力を移動させる。最後は……なんでしたっけ?」

「大気中に奔流している魔力と発動させる魔法との結合だ。まぁ簡単に言うなら魔力を体外から貰うんだ。大気中と体内の魔力はモノが違ってな。その2つが混ざり合うことで初めて魔法になるんだ」


そう言いメロウが腕を突き出し火炎ファイアと呟くと一瞬にして手のひらから直径5cmの火の玉が現れた。


「はわぁ、凄いですねお父様」


その火の玉に見惚れてじっと動かなくなるレティア。そんな我が娘の様子にメロウは、はぁとため息をつきながら


「いつまでも見てないで次はレティアがやるんだよ。まずは僕がやったのと同じ火属性の魔法からやろうか」

「はい。えぇとまずは体内の魔力を火の属性に変えるんですよね。どうすればいいのですか?」

「そっか、そこから教えないとだね」


魔法をやりたい!と言ったレティア。だがしかし彼女は魔法に関しては一切の知識が無いのだ。基本的に貴族家ならば6歳程度から嗜むのだがいかんせんレティアは剣の才能に優れていた。そのため早くから剣の鍛錬に集中していたため魔法に触れたことがなかったのだ。


「うーん、説明が難しいけど……自分の体内にある魔力は真っ白でそこに色を足していくってイメージなのかな。火属性だったら赤といった感じでね。僕がさっき火炎って言ったのはあくまで火属性というのをイメージしやすい様に自分への暗示って物だと考えてくれ。まとめると大事なのはイメージだ、じゃあ頑張れ!」


この男最後は適当である。そんな父親にレティアはジト目を向けながらも早速腕を突き出し火のイメージをする。

火……火……と想像を働かせるレティアの脳内で浮かんできたものは夢で見たあの青い炎だった。

すると突然身体の中から暖かい何かを感じた。これが魔力なのだろうか?胸の辺りで渦巻いているモノを感じた。それを突き出している右手へと送ると右手の周りもまたとても暖かく感じる。


メロウからの投げやりな説明でも一瞬で第2工程までクリアするレティア。彼女は剣同様に魔法も素晴らしい才能を持っているのだろう。流れる様に第3工程である大気中と体内の魔力との結合を行うレティア。

そんな様子を見ているメロウの心境はただ一つ。


これ、やばくないか?と

レティアから感じられる魔力の質が一般の子供とは何かが違う。そんなものを今日初めて魔法を使い人が発動させるとどうなることか。


「レティア!一旦ストッ……」

「え?」


遅かった。

既にレティアの手から青い火の玉が出現していた。しかしメロウの危惧していた魔法の暴走といった様な事は起きなかった。そのことにメロウはひとまず安堵した。


「よかった、何も起きなかったか。それにしても青い炎か、と言う事は夢で見た光景を想像したのか?」

「はい、とても綺麗だったので強く脳内に焼き付いてまして炎を想像するとあの青い炎が思い浮かびました。まずかったでしょうか……?」

「いや、特に問題は無いとは思う。それに魔法行使自体はとても綺麗に行えていたし、魔力の質を変に感じたのは青い炎っていう特殊なものだったからだろう」

「綺麗!私ちゃんと魔法使えてましたか?」

「ああ、もうレティアも立派な魔法使いだ。青い炎が出たのは少し不思議だけどまぁ大丈夫だろう」


正直メロウもおかしいとは思っているのだ。イメージしたからと言って魔力の質が違うなど常識外れにも程がある。しかしだからこそメロウはこれ以上に考えるのをやめた。

頭痛くなりそう、と。


「とりあえず、僕が教えられるのは基礎だけだから応用は本を読むか母さんに聞くかしてくれ。僕はちょっと疲れたから休むよ、母さんに夕食はいらないと伝えておいてくれ」

「わかりました!」


そう言うとメロウは頭を抱えながら自分の部屋へと戻っていく。そんな父の背を見つめるレティアの顔は笑顔で溢れていたのだった。


そこからのレティアの行動は素早かった。

まず母の部屋に行き要点を話すとすぐさま父の書斎へと赴き本を漁る。

数時間経っただろうか、窓の外に光はもうなかった。

そんな外の様子を見てようやく今まで読んでいた本を棚へ戻す。1冊、1冊と今まであった場所に丁寧に。


「ふふ、魔法って奥深いのね。イメージだけじゃない、体外へ放出した魔力の形を捻じ曲げることで様々な魔法を作れる、か。これからどんどん試してみないと……あれ?」


最後の一冊を戻した時、棚の端にある水色の本。それにレティアの意識は奪われた。

先程本を漁っている時にはさほど気にならなかった。だが今はこの本から目が離せない。


「なんだろう、この本」


手に取りパラパラとめくってみるとそれは誰かの日記のようだった。1日1日細かいことが書かれていた。

するとそれを読み進んでいく内に1つ気になる文面が目に入った。


『これを読んでいる私の子孫へ。

私はこれから凶悪な敵と戦うことになっています。生きて帰ることは難しいでしょう。そのためこれを残そうと思います。

次のページにはあなたが魔法を上手く扱う為のモノを残しています。ですがそれを身につけるには大きな危険も伴います。その覚悟があるならば進みなさい』


そこで文は終わっていた。


「危険かぁ」

今レティアの脳内ではひたすらに次のページを開くかどうかで迷っていた。

興味はある。すごくある。なにせ紙をあとたった1枚めくるだけで魔法が上達するかもしれないのだ。

だがこの日記に書かれているように危険かもしれない。


「……よしっ」


迷った末にレティアは進むことを選んだ。

普段のレティアであればこんな決断は下さないだろう。しかし、今のレティアはただただ魔法に夢中なのだ。もし父や母に話してこのチャンスを逃すようなことになればきっと後悔するだろう。

そう考えレティアは次のページを指で摘まむと恐る恐るめくっていく。

するとそこには___


「ま、そんな美味しい話あるわけ無いよね……」

何も書かれておらずただの白紙であった。

「あんな言い回しまでしてこれって嫌がらせにも程があるよぉ、純粋な子供の心を弄びよって。もー、無駄にドキドキして疲れちゃったよ」


レティアは手に持っていた日記を元の位置へ戻すと部屋を後にする。


水色の日記帳は淡い光を放ちながら静かに消えていくのであった。







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お嬢様は戦います! ピグッピー @guppy1380

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