お嬢様は戦います!

ピグッピー

お嬢様は憧れる

ガララッ

崩れ落ちた建物の中から一人の女が持っている剣を杖の代わりにしながら立ち上がる。

身につけている鎧は傷だらけで所々へこんだり穴が開いていたりしている。そんな様子からも察せる通り身体が露呈している部位もまた切り傷が多く大量の血が流れている。


「はぁ……はぁ……」


少しでも酸素を取り入れようと大きく肩を上下させながら呼吸をする。今すぐに倒れてもおかしくはない、そんな状態でも彼女の目線は揺らがずただ一点、目の前の敵を見据えていた。

全身が真っ黒の獣人、彼もまた目の前の弱った敵を前にしても一切の油断を見せずに立っている。

見つめ合う目と目。敵の一挙一動を絶対に見逃さぬようまばたきさえも許されない。

そんな状況であるにも関わらず、身体中がボロボロにも関わらず、彼女は微笑んだ。

その微笑みは血が滴る顔ながらも美しく、誰もが魅了されそうなものだった。

獣人の男もその顔をみて呆気にとられたがすぐに声をあげ笑い出す。


「はっはっー!まさかこの状況でその様な顔ができようとは、あまりの痛みに狂ったか!だがまぁ我が相手なのだ、無理もない」


自信満々にそう言う獣人の男。事実彼はとてつもなく強いのだ。

アルティード王国には 五大聖騎士ザ・ナイツと呼ばれる王国屈指の騎士達がいる。

この場に立っている彼女もまたその内の一人だ。そんな彼女でさえも一方的な戦闘になってしまっている。彼女の振る剣は全てその肉に弾かれ、魔法は全てその超スピードで躱されてしまう。まさに手も足も出ない状態なのだ。そんな絶望を前にしても彼女は微笑むのだ。


「ええ、確かに狂ってしまったのかもしれません。このままいけばほぼ間違いなく私は死ぬでしょう。もちろん死ぬのは怖いですし絶対に嫌です。でも貴方の様な強者と戦えるという事に喜びも感じてるんです」


そう言い今まで杖の代わりにしていた剣を構え直す。柄をギュッと握りしめ力を込める。目の前の敵をただ倒す為に全力を尽くす。


相対する男もまた拳をギュッと握りしめ全身に筋肉強化の魔法をかける。


「アルティード王国五大聖騎士が一人、カナリア参ります!」


地面を蹴って全力で敵に斬りかかる。単調な一直線での斬りかかり。しかし今までとは明らかに速さが違う。反応することさえ難しいそのスピード。しかしどれほど速くても男には関係ない。


キィィン!


カナリアの剣は男の身体に傷をつけることは叶わない。硬すぎるのだ、男の鍛え上げられた肉体が。

カナリアもそれは承知の上だ。ただの攻撃では絶対にこの男は倒せないということを。

男が振りかぶった拳をかろうじて躱しながら剣を振るう。しかしどれもかすり傷にすら至らない。


「ふん、拍子抜けだな。このような攻撃で我を倒そうなど、所詮は威勢だけの雑魚どもか。期待するだけ無駄か」


もういい、というかの様に今までとは違った魔力が身体から発せられる。

その瞬間カナリアの前方から衝撃が襲い吹き飛ばされる。


「がはっ……」


背後の家屋に衝突し肺から酸素が抜け出していく。しかしそれでは終わらない。

一瞬で近づいていた男がカナリアの顔を掴むとそれを地面にヒビが入るほどに叩きつける。カナリアが自身に張っていた硬化魔法がなければ間違いなく死んでいた。

なんとか抜け出し距離をとるカナリア。しかし全身が血だらけですでに虫の息の彼女が圧倒的な力を持った相手に出来ることなどほとんど無い。

それでもカナリアは剣を構える。


「……なぜまだ戦う」

「この国を、愛する人たちを守るため」


一切の迷いなく答える。

そう、この国を為にカナリアは命を賭しているのだ。絶対にこの男に国は滅ぼさせないと。

残りの魔力全てを握っている剣に流し込む。

すると剣身に青い炎が走り出す。カナリアの髪の色と同じとても美しい炎だった。

その剣を横一線に振るう。青い炎が前方に一直線にほとばしる。


「今さらなんだ、こんな魔法が効くとでも思っているのか?」

「もちろん思っていませんよ」

「なっ…」

男が炎を振り払うとすでにカナリアが目の前に青い剣を持ち刺突の態勢に入っていた。

そう今の炎はあくまでカナリアが男の懐に入るこむ為の目くらましだ。

しかし彼女の攻撃では男に傷をつけられない。はずなのだが、


「透過の魔法はご存知でしょう?」


そう一言。

男の胸に思い切り剣を突き刺す。それは今までとは違い男の身体を貫き体内全体に炎を走らせる。


「ガハッ!まさか……いつの間に、魔法を……」


大量に吐血しながら最後にそう言い残すと男の身体が灰になった様に一瞬で消えていった。

透過の魔法

触れた一部を透過させるという魔法なのだがその能力故に消費魔力も多い。そんなに大量の魔力を使えば必ず男に感知される。それを悟ったカナリアは少しずつ相手に感知されないギリギリの魔力で透過の魔法を男の身体に蓄積させたのだ。

どれだけ筋肉が硬かろうがさらにその内側を直接攻撃すれば関係ない。


「はぁ……はぁ……やった、勝ったんだっ」


敵の消滅を確認すると全身から力が抜け崩れ落ちる。

勝てないと思っていた敵になんとか勝てた。

しかしカナリアも被害は大きく、戦闘中はアドレナリンで動けてたが今は身体を一切動かすことができない。


「もうダメかな……ごめんなさい、みんな」


最後に愛する国での思い出を振り返りながら静かに目を閉じたカナリアであった。


_________



「って言う夢をみたんですよ、お父様!!」


目の前に並ぶ食事には目もくれずみた夢をシール家の9歳の少女レティアは父に語る。


「もうすっごくかっこよかったんです!あの女性が待ってた剣を振った時のあの青い炎!思い出すだけでもう!あれです!凄いです!」


よほど感動したのだろう、いつもは大人しいレティアが興奮して語彙力も崩壊している。


「そ、そうかいい夢をみたんだな。それにしてもカナリアか……どこかで聞いた名だな」

「そんなことよりお父様!私に魔法を教えて下さい!」

「え!?そこ剣じゃなくて魔法なの!?話聞いた感じ剣で戦ってるイメージが大きいんだけど……それにレティアは剣の才能がずば抜けてるからそっちを鍛えた方が……」

「だったら夢で見た方の様に両方使います!」

「あぁ、もうわかった、わかった。その代わり剣の鍛錬はもちろんのこと勉学も怠らないこと、いいね?」

「はい、ありがとうございます!」


こうしてレティアの魔法の勉強が始まったのだ。








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