第444話 2466年 アイとのはじめてのデート5

 そのビルは20世紀から21世紀の長きにわたってファッションアイコンとして、流行を発信してきた老舗しにせで、第三次大戦の時と関東大震災のときに消失、崩壊したが、何度も建てかえながら、形や業種を変えて今も生き残っている。


 アイはそこでドット柄のドレスを購入した。


 やけに洗練された姿のロボット・マヌカンに奨められたいち押し商品だった。最近やたらとネット上で目にする、思念でドットの大きさや色が自在に変えられる最新の『カメレオン・ファブリック』を使ったという流行はやりのヤツだ。

 ぼく自身は、服なんか機能違いを何着か持っていれば事足りると思っているので、服に興味はほとんどなかった。

 だからアイが『デジタル試着』で、なんども服を着替えて、さらに得意げにファッション・ショーをしてくるのには辟易へきえきとしたし、その感覚がそもそも理解できなかった。


 だけど、そのドレスだけはちがった。

 とてもフェミニンなラインのそのワンピースは、びっくりするほどアイに似合っていた。『デジタル試着』で目の前に現れたとき、ぼくはその可愛らしさにすこしドキッとした。もちろん、襟ぐりがおおきく開いて胸元が強調されるデザインに、肩口と脇の部分な大胆なカットが施され、ちょっとエロい、っていうのもその『ドキッ』の原因の一部だ。


「絶対それがいいよ」


 だからついそう口走ってしまった。

 その声に気持ちがこもってたのかもしれない。アイはぼくのことばを聞くなり、顔をくしゃくしゃにして、その服を抱きしめた。服に顔をうずめるようにして抱えるアイの姿が、あんまり愛らしくて、ぼくは思わず「プレゼントするよ」と言った。


 そのときのアイの喜びようったらなかった。

 キャッと悲鳴のような声をあげたかと思うと、その場でぴょんぴょんはね跳んで、まさに小躍りしはじめた。照れくさくなったぼくは、なぜかロボット・マヌカンになんども会釈した。


 だけど、そのすてきな服をいつ着るのかと、いうのがぼくには想像つかなかった。

 でもアイの嬉しそうな笑顔をみたら、そんなことは瑣末なことのように思えてきた。


 会計を終えたあとも、アイはプレゼントされたことが、心底嬉しかったようで、「タケルからのプレゼント」とずっと呟いていたし、手をつないだまま、突然スキップをはじめたりするものだから、ぼくはずいぶん振り回されて、一度は転びそうになった。


 次にぼくらは『イチゴンゾーラ』のおいしい店へ行った。

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