第443話 2466年 アイとのはじめてのデート4

 スクラブル交差点を一斉に人々が横断しはじめた。

 その数はゆうに百人を越えている。

 この交差点を渡るというのは、芸術的なオブジェクトの一部になれる体験だ、と誰かが唱えはじめてから、世界中からこの巨大交差点を、生身のからだ、そして自分の足で渡るというのが一種のステータスになったらしい。

 無重力空中回廊や浮遊地下通路、思考追尾式自走路コンベアロードなど、便利な移動手段はさまざま用意されていていても、ここではみな、競って自分の足で道路を踏みしめたがった。

 まったく変わっている——。

 だがそんな人々をしても、自分たちと同じように、この場所を進む兵隊には驚かされたようだった。それだけでなくその兵隊たちに、若い男女が護衛されているとなれば、興味をかき立てないはずはない。

 ぼくには周りの人の好奇な目がどうにも気になって仕方なかった。

 おそらくほぼ全員が自分の網膜に映ったこの光景を、リアルタイムでSNSやネットに送りこんでいるだろうし、それを見た人々が、遠隔投写人格ゴーストを使って、物見遊山的に出現するにきまってる。

「中佐、これまずいんじゃない。かえって目立ってるよ」

「そうみたいね」

「ぼくらは父さんたちみたいにまだ顔が知られてない。こんな厳重な警備だと、いらぬ憶測を呼びそうだと思うけど……」

「たしかに。タケルくんはどうしてもらいたい?」

 中佐はぼくに提案を持ちかけてきたが、脊髄反射的せきずいはんしゃてきに答えたのはアイだった。

「そりゃ、タケルと二人きりがいいにきまってるでしょ!」

「アイ、それは無理。私に人類滅亡のトリガーをひかせないで」

「だってぇーー」

 アイがプーッと膨れっ面をした。

 ぼくは、その顔が妙におかしくて、そしてなぜか愛おしく感じた。つい口元がにやけそうになって、あわてて苦笑いを装い中佐に進言した。

「できれば、ぼくらに付いてくるのは中佐だけで、あとの三人は遠まきに警護にあたってもらうのがいいと思います」

「えーーっ」

 アイはがっくりこうべを垂れながらも、反旗をひるがえしてきた。でもその仕草だけで、すでにそれが現実的な落とし所だと観念しているのは明らかだった。

「それでいくのが現実的のようね」

 中佐はその様子には目をくれることもなく、ぼくの提案を採用することに同意した。


 最初にむかったのは三叉路の三角州部分に建つ、めちゃくちゃにユニークな形状をしたファッションビルだった。

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