第442話 2466年 アイとのはじめてのデート3

「そうね。それでこころの隙間も埋められると思うわ。きっと」


「中佐。ほんとうでしょうね」

 手をつないでもなお、アイは中佐を問い詰めるように訊いたが、中佐は屈託もなく答えた。

「あら、わたしの時にはとても効果があったわ」

 それを聞いて、アイが驚いた。

「中佐!。あなたみたいな生真面目な堅物がそんなことを?。冗談でしょ」

「あら、アイ。堅物な女は恋愛しちゃいけないの?」

「いや、そ、そうじゃないけど……」

 あまりにまっとうな反論にしどろもどろになる。


「あなたたちの知ってるわたしは、融通のきかない四角四面の警護責任者としてのわたし。別の顔は見せる必要はないでしょう」

「ん、まぁ、そうだけど……」

 アイがきまり悪そうな顔つきになった。だけど、それと同時に握った手に思いっきり力をいれてきた。

 あんたも加勢しなさいよ、ということらしい。


 だけどぼくはここで余計な口を差しはさむ真似などするわけがない。

 ぼくはだんまりを決め込んだ。アイにもその姿勢は鮮明に伝わったらしい。思いっきり指を握りしめてから、おぞおずと訊いた。


「で、中佐は好きな人に甘えたりするの?」

 中佐はあっけらかんと答えた。


「あったりまえじゃない。わたし、甘えるわよ。ふだんお堅い分、たっぷりとね」


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「ホントに最低ッ!」


 そのあと、渋谷にむかった先でぼくはアイの不満の詰まったそのことばを、ずっと聞かされることになった。

 渋谷にある世界遺産『スクランブル交差点』の近くにスカイモービルで着車した時点で、ぼくらはまわりの人々の注目を集めまくっていたが、そこから武装した兵士が降りたち、さらにその兵士たちが警護しているのが若い男女だとわかった時点で、周りは騒然となった。

 てっきりぼくとアイ、そして草薙中佐の三人で動くと思っていたのに、後方警護の車から三人の兵士が降りてきて、すぐさまぼくらを取り囲んできたのは、ぼくも予想外だった。


「マジでさいてぃッ!」


 アイの怒りの爆発も当然で、ぼく自身もまさかこんな物々しいものになると思ってなかったので、おおいに面喰らった。


「アイ、わがまま言わないでちょうだい。あなたたちが市中を移動するというのはこういうことなの」

「こんなモン、デートじゃないわよ。武装した兵士に囲まれてンのよ。ロマンディックの『ロ』の字もないじゃないのサ」

 アイの不満を中佐は一言の元に却下した。


「さぁ、御託ごたくはいいわ。信号を渡るわよ」

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