第445話 2466年 アイとのはじめてのデート6


 イチゴ味のチーズを使った(といっても本物ではなく、もちろん合成チーズだけど)、なんとも不思議なスイーツだった。

 フレッシュなのにもっちりとした食感は、なんとも新鮮でぼくはたちまち気に入った。思わず「おいしい!」と声をあげてしまったほどだ。

 でもアイはなにも言わなかった。

 ただ、スプーンをくわえたまま満足そうに微笑んで、うっとりしたような目をぼくにむけてきた。

 その潤んだような瞳にぼくは、一瞬ドキッとした。

 いままで見たことないような、恍惚こうこつ感あふれる表情が、とても可愛くて、愛おしくて、でもちょっとエロチックだった。

 下半身がぎゅっと固まるのを感じて、ぼくはあわててシャツの前をかきあわせた。

 ぼくのそんな気持ちなど気づく様子もなく、アイは『イチゴンゾーラ』をすくうと、店内の壁際にたたずんでいる中佐にむかって「食べてみて」とスプーンを掲げてみせた。

 当然中佐は断ったが、あまりにアイがおいしそうな顔で奨めるので、『今度プライベートで食べにこようかしら』という、らしくない言葉を呟いた。

 そこからのぼくは、あのときのアイの表情が思い出されて、味どころではなかったけど、たしかに人気があるのも当然だと感じ入ることはできた。


 ただ難点はフレーバーが強すぎて、食後30分くらいは口の中がその甘い匂いでいっぱいになるっていうことだ。おかげでアイとことばを交わすたびに、その匂いがお互いの鼻腔びこうをくすぐることになった。

 とてもいい匂いだけど、さすがに30分も嗅ぎ続けると、すこしばかり気分が悪くなる。

 

 そのあとは今日のデートのメインイベント『インナースペース・ワンダーランド』という、超大型室内遊園地にむかった。

 室内といっても、ワンフロアがスタジアム並の大きさもある。しかも一番大きなアトラクションの無重力巨大迷路はビルの二十階をぶち抜いた広大なスペースで、上下左右の感覚をゆさぶる無重力空間での脱出ゲームは人気が高いと聞いていた。


 400年前は、ここには公共放送局の建物が立っていたということだったが、映像番組の制作が、AIに任されてからは、映像はほぼCGになり、媒体もヴァーチャル空間内でのチャンネルでの配信となり、大きなスタジオが不要になったらしい。


 施設には軍の特権をつかって、並んでいる人を横目に割り込みさせてもらった。


 すこしばかり居心地は悪かったが、最新のアトラクションを優先的に体験しまくった。

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