第412話 アメリカ陸軍対魔法少女3

 歩を進めると、今度はフロア内に陸上の生物がいくつか現れた。

 上階の展示物を垣間見せるような形で、時代や場所、生物分類別の代表的な生物が飾られていた。入り口付近は23世紀頃まで生きていた生物が中心だったが、順路に沿っていくと、古代生物や奇妙な姿をした水棲生物が現れはじめた。どうやら年代がさかのぼるように展示されているらしい。

 上階にあがる空中回廊までくると、恐竜と呼ばれる巨大な爬虫類が何体か飾られていた。これも本当は実物そっくりに動いて歩き回るらしかったが、今は電源供給システム自体を絶たれていて、どろんとした目のまま、鋭い牙だけをこちらにむけている。


「そっちは、ずいぶん興味深いものがあるようですね」

 ロギンズが共有しているスージーの視界に映るものを見て、声をかけてきた。スージーはロギンズの視覚に注意をむけてみた。

 彼の言い分ももっともで、彼のまわりには薄汚れた透明ドームや、朽ちたブロックや変色した壁くらいしか目にはいってこなかった。

「そっちはAI管理が行き届かないようね」

「内部の収蔵品の保護には予算が計上されていても、外装までは回らないってことでしょうかね」

「いえ、内部の展示品もどれも酷いものよ。貴重な収蔵品が本当にあるのかどうかもあやしいわ」

 そう言って会話を終わらせようとしたが、ガイルが会話に割り込んできた。

「あるさ、スージー。この博物館には23世紀まで家庭で飼われていた猫とか犬とかいう動物のほんものの骨格標本が種別ごとに揃ってるんだぜ。オレはむかしよく来たもんさ」

「むかしよく来た?。ガイル、あなたこの地域の出身なの?」

「あぁ、まぁ、そうだよ。あの超大型水槽で魚が泳いでいるのも見た。あれ、何十万トンの水を『ゴリラ・アクリル』っていう薄くて透明度の高い素材で支えてるんだぜ」

「ゴリラ・アクリル?。ずいぶん旧世代の素材ね」

「まぁ……、今じゃあ、あんまり頑丈とはいえねぇな」

 

 スージーは共有するガイルの視界を注視した。

 壁しか見えなかった。今では考えられない有線の電線が、幾重にも張り巡らされていて、それが複雑に分岐したり交差しているのがわかった。この有線の電線を無線に替えるコストが捻出できずに、博物館が閉園になったというのを思い出した。

「ガイル、ずいぶん殺風景ね」

「よく言うね。スージー。こっちはエレベーター・シャフト内をくだってんだぜ。しかも旧式の『揚力装置フライ・バーニア』を担いでね」 

 ガイルは不満そうに鼻を鳴らしてから視線を下にむけた。思わず目をつぶりたくなるほどの深淵が足元に広がっていた。

「この搬入エレベーター・シャフトは、十メートル四方くらいあんのかな。だけど、どっかから風が吹き抜けてて、さっきから『揚力装置』が安定していなくて苦労してンだ」

 そう言いながら今度はガイルが上を向く。ガイルの上に等間隔の距離を保って降下してくる百人以上のガイルの中隊の姿があった。

「それにこんだけの人数だと、これでもちと狭いね」

 

 その時ロギンズの思念が頭の中に広がった。

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