第411話 アメリカ陸軍対魔法少女2

「ロギンズ、そちらの入り口はどうなってる?」

「クワトロ中佐、こちらにはなんにもありません。昔はここに世界中の植物なるものが生えていたんでしょうけど、いまではただの広い空き地ですよ」

「ガイル、そちらはどう?」

「スージー、わかってるでしょうが。展望台にはだれもいねぇし、エレベーターシャフトん中は、味気ねぇってだけだよ」


 ふたりはまるで水と油。陰と陽だった。

 アジア系のロギンズ少佐は慎重につつがなく作戦をこなし、なにもないことを願う穏健派だったが、逆にスパニッシュ系のガイル少佐は常にイレギュラーを期待して、ド派手な作戦をしかけたがる武闘派だった。

 スージーはこのプラスとマイナスの両極端の二人を同時に重用するのが常だった。


「じゃあ、わたしの隊は正面玄関からはいる。今からロギンズ、ガイルの両名は、わたしとニューロン・ストリーマで思考と視点を共有する」

 そう、テレパス・ラインで連絡すると、ガイルが相変わらずの軽口を寄せてきた。

「了解、スージー。でも、もしやらしいことを思い浮かべても、オレを責めないでくれよ。あんたがとっても魅力的なからだをしているからだからな」

「なにを想像しても構わないわよ。なんならわたしもセクシーなことを想像しましょうか。キミのちびっこいヤツをわたしが口でくわえて、食いちぎっているところを……」

「スージー、冗談だよ……」

 その直後にテレパス・ラインが切れた。

 が、ニューロン・ストリーマに入れ替わり三人の思考が共有された。ふたりの高揚感や緊張感が、そのままこちらにも伝わってくる。軽口を叩いてはいても、ガイルはリアルな実戦に興奮を押さえられずにいるらしい。

 右目が目の前の十メートル級の正面玄関の門扉をとらえた。だが、左目にはロギンズとガイルのそれぞれの視点が映し出されており、上下にわかれて見えていた。

 三人は押し黙ったまま各自の持ち場の入口から刻当地点をめざしはじめた。うしろに百人以上の兵士たちが続く。


 博物館内に足を踏み入れたスージーは、そこに古き良き時代の博物館の姿をみた。

 いきなり出迎えたのは、数十メートル上の天井に設えられた透明なプール。そして海にいる大型海洋生物の実物大ロボット群だった。おそらく『クジラ』や『イルカ』と呼ばれたほ乳類で、一番おおきな物は30メートルほどもあって、それが海にみたてた巨大な天井のプールを泳ぐ仕掛けになっていた。

 天井自体が透明になっていて、下からそれらの生物を見ることができたので、海底から見あげる海洋生物の姿という展示コンセプトだったのだろう。おそらく数十階上には、その海洋生物たちが泳ぐ姿を見おろすことができる展示スペースがあるにちがいない。

 だが、すでに閉館されて数十年経つ状態だったので、透明な天井は汚れて薄暗く、水は澱んで視認性が悪かった。そして、大型海洋生物ロボットは皆、恨めしげな目をこちらにむけたまま、プールの底に沈んでいた。

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