第373話 亜空間の切れ目
ヤマトはその夜、秘密の通路を抜けてひとりで、こっそりマンゲツに搭乗していた。すべての電源・通信等をオフラインにして、いつもの手順でカンゲツを呼びだす。
「カンゲツ!。聞きたいことがある」
だが誰もこたえようとしなかった。マンゲツが生体反応を示すこともなく、まったくの沈黙だけがそこに流れた。再び大声でカンゲツの名を呼ぶ。しばらくして機械的な声らしからぬ億劫そうな声でカンゲツがこたえてきた。
『魔法……少女……のことかね?』
「そうだ、カンゲツ。だがなぜ知っている?」
『この装置に接続されているのだよ。君の思考をスキャンするなど造作もない』
「なら話は早い。魔法少女はあのイオージャという亜獣が操っているのか、それともほかに操っている別の亜獣がいるのか教えてくれ」
『残念だがタケル。私は亜獣も亜獣の能力も知りえない。今回の亜獣がどんなものかには興味もない。なぜなら、わたしはきみたちがマンゲツと読んでいるこの個体を、死なせないようにするのが努めなのだから』
「じゃあ、知っていることだけでいい。エドがこの基地に魔法少女を呼び込んで殲滅するという作戦を立案してきた。だがこの場所は、この基地は、亜獣に襲われないはずだ。むかしきみかきみの仲間に、そうアドバイスされたと聞いている」
『現に亜獣に襲われなかっただろう?。亜獣出現以来80年近くのあいだ、ずっと』
「それはなぜなんだ?。いままでぼくは、なにかの結界があると思っていた」
『あぁ、ある。だからの基地は亜獣に直接襲われることはない』
「だけどエドは呼び込むことは可能だといってる。なぜ呼び込める?」
『聞いていないのかね。そのエドとかいう亜獣担当から……』
「カンゲツ、それはどういうことだ?」
『わたしたちがきみらにもたらした情報は断片的ではあるが、何人かの責任者だけに唯一無二の情報として預けてあるのだよ。それにはきみも知らない情報も含まれる』
「ぼくの知らない情報……。
『あぁ……。だからエドという男はそんな作戦を提案してきたのだろう』
「だけどもし『結界』をといて、魔法少女がこの基地内に出現したら、迎え撃つもなにもないはずだ」
『心配はない。この基地内に魔法少女が出現することはない。なぜならこの場所には亜空間の切れ目がないからだ』
「亜空間の切れ目?」
『亜獣はどこでもここでも自由自在に出現できるわけではない。亜獣はあらかじめ決められた場所からこちらに侵入しているのだ。まぁその数は数十万箇所ほどあるがね』
「だったらなぜこの基地は安全だと言い切れる。ここだけは調査済みなのか?」
『この基地の周辺で一番近い亜空間の切れ目は、君も知っていると思うが、プルートゥが現れたあの場所だ』
「あのローディングエプロン(乗降のための駐機場)か」
『あぁ、あそこがもっとも近い場所だ。だからプルートゥが生み出したあの龍リョウマの偽物も、死体に憑依して基地内へ潜り込むしかなかったのだ』
その説明をうけて、ヤマトの脳裏に疑問点が浮かんだ。
「ちょっと待ってくれ。リョウマに化けたヤツはパイロット権限で『シンク・バンク』に侵入したあと、死んだパイロットの脳を奪って逃げた。おそらく亜空間に隠したはずだ。なぜこの基地内で亜空間にアクセスできる?」
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