第374話 その男は『結界』を排除するつもりなのだろう
『心配には及ばんよ、ヤマト・タケル。亜空間の切れ目は一方通行なのだ。こちらの世界にくるには決まった場所でなければならないが、あちらの世界にいくのは自在なのだ』
「なら、なおのこと、エドがどうやって魔法少女をこちらに呼び込もうしているのかがわからない」
「ふ、その亜獣担当のエドという男は、ずいぶん豪快な性格のようだね……』
『豪快?。その真反対にいる男だよ。いつも慎重すぎるほど慎重で、あまり人前にしゃしゃりでないし、求められない限りみずからの意見を言い出さない」
『そうか……。だが魔法少女を呼び込む方法を知っていて、それを実行しようとするのなら、かなり胆力があるとしか思えないのだがね』
「どういうことだ……」
『おそらくその男は『結界』を排除するつもりなのだろう……』
『デミリアンという『結界』をね』
ヤマトはカンゲツのそのことばを聞いて、それまで感じていた違和感や、心に生じていた疑問が払拭し、すとんと腹に落ちてきた感覚になった。
「つまりこの基地には、デミリアンがいるから亜獣が近づかない……。そんな当たり前で単純な理由だったというのか。だがおかしい。全機が出払っても基地が襲われたことはないぞ」
『当たり前だ。なぜ襲う必要がある。ご褒美もないのに……』
「ご褒美……?」
『きみだよ。ヤマト・タケル』
ヤマトはことばをうしなった。腑に落ちるようであり、さらに疑問が湧いて出るようでもあった。
「だ、だけど……、ぼくを狙っているのなら、この基地を離れた時に襲われてないとおかしいじゃないか?」
ヤマトは湧き出てきた疑問のほうを口にした。
『やつらはきみそのものを捕捉できる能力があるわけではない。やつらが監視しているのはデミリアンなのだ。きみの存在の捕捉はそれに付帯した形だけで行われている』
「どういうことだ……」
『ひとつシミュレーションをしようじゃないか。今まで一度起きなかったことを』
カンゲツがもったいぶった言い方で提案してきた。
『もし、この基地から全部のデミリアンがいなくなったとする……。そう、たとえば全機出動した場合だ。そのとき、もしきみがまだ基地内にいたとしたらどうだろう』
「そんなことはあり得ない。ぼくはこのマンゲツ、いやそうでなかったとしても、どれかの機体に搭乗しているはずだ」
『あぁ、そうだ。だが、全部のデミリアンが出払ってこの基地が丸裸になったとき、もし基地内にまだ、きみが残っていたとしたら……」
『そのとき初めて、きみはやつらに捕捉される——」
ヤマトはカンゲツの言っている意味がわかった。反射的に身震いした。感情にとらわれれない不随意筋の動き。本能的かつ原始的な反応——。
カンゲツは機械的な声に、精いっぱい興味深そうなニュアンスを含ませて言った。
『ふ、そのエドという男は本当に大胆な計画をたてるな……』
『魔法少女を誘い込むために、ヤマト・タケルを餌にしようとしているのだから……』
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