第278話 人間大亜獣出現!
館内に警報が鳴り響いた。
壇上に用意された椅子に腰かけて草薙の演舞に見とれていたエドは、からだをびくつかせてしまい、椅子から転げ落ちそうになった。正面で直立不動でいた兵士たちも、驚いている。
だが、すぐに警報が自分の頭の中で鳴り響いていたことに気づいた。テレパス・ラインは複数の着信を受けて、幾人もがエドの受信を要求していた。どれを取捨選択していいかわからず、エドはまずその中から信頼する助手からの着信を選択した。
「なにがあったんです?」
「亜獣の反応が現れました」
「本当に?。ど、ど、どこですか?」
「ニューヨーク、34番街、高級レストランモール『フーディアム』です」
「フーディアム?。そんなとこで、なにが、なにが起きているんですか?」
「いえ……、それが……」
「え、映像をこっちに送ってくれないですか?」
「それはもう草薙大佐が手配を……」
そう言われて正面に顔をむけると、壇上の中空に大型映像が降って湧くように投影されたのが見えた。画面にはフーディアムの館内と思われる、何店舗かのレストランが映っていた。どの店も豪華で洗練された雰囲気の店構えであることが、素人目にもわかった。
投写されている映像を見ながら、草薙がこめかみにひとさし指をあてがって、交信していた。すでに目の前の兵士たちは、数人単位のグループで迅速に動き始めている。おそらく草薙は情報収集しながら同時に、ニューロン・ストリーマで意識を共有して、テレパス・ラインで部下たちに指示を飛ばしているにちがいなかった。
「ニューヨーク、34番街、高級レストランタワー『フーディアム』で、亜獣反応が確認された。それと同時に『魔法少女』を名乗る女性が現われて、ゲートキーパーのロボット警備兵二体を一瞬で破壊。店内に侵入後、数名の客に危害を加えているそうだ」
草薙がまわりの兵士たちに早口で説明をすると、だれかが大声で尋ねた
「草薙大佐、AI監視システムはどうなってるんです?。殺意が感知されれば、自動でからだの動きはロックされるはずですが?」
「それがまったく反応してないらしい」
アスカが驚きの声をあげた。
「嘘でしょ。まさかあたしたちみたいに『生体チップ』が埋め込まれてない『ネイティブ」
とかだったの?」
「ちがう。その女性の生体データが、AI監視システムにリアルタイムで送信されている」ことは確認されてる。だが、監視システムが反応していないと……」
「そんなことがありえるの?」
「ありえない。ありえないから現場が混乱している」
「今、特殊アンドロイド部隊、
草薙の部下のひとりが大声で状況を報告してきた。
「
「わかりません。ですが、現場からは、すでにタワーの上空に待機しているとの……」
「現場責任者に『ゴースト』で、わたしをその現場に立ち会わせてもらえないか打診してくれ」
「草薙大佐。それはすでに交渉してみましたが、あそこは『ゴースト』での入場はできないルールになっているっていうことで……」
「緊急事態だぞ。わたしはそこに食事をしにいくわけではない」
草薙は忌々しい気持ちを隠そうともせず、ほかの者に聞こえるように舌打ちをした。
エドは現地から送られてくる映像に目をむけた。カメラ映像はエントランス広場を映し出していた。すぐに床に倒れている人々の姿が見えた。なかにはどこからか、
カメラがそのエントランスを上にパンして、犯人の女を映し出した。すこしえらが張って、目はそれほどくっきりしていないが、ツンと突き出た鼻がエレガントなイメージを与える顔だち。
「あれって、このあいだ大ヒットした映画のヒロイン演じてた……」
クララがうろ覚えのまま呟いたが、すぐにアスカがバカにしたように否定した。
「クララ、あんたボカぁ。本人なわけないでしょ。たぶん今月の流行ってる顔に整形してるだけよ。服も今週の流行の『ターコイズ・ブルー』だし、シルエットなんか来週から流行する予定のフェミニンな『Aライン』に変形させてるでしょう。よーするに軽薄なバカおんなっていうわけ」
「いや、だが、そう簡単ではないようだ」
目の前に映し出された映像を見ながら、ユウキが思わずことばを漏らした。
「そうね。ただのバカ女じゃないのは確かね……」
「バカは宙を浮いたりしないものね」
エドは映像を注視した。犯人の女は、エントランスの20階建ての吹き抜けの5階部分にいた。吹き抜けの中央の中空に浮いているのがわかった。
「彼女、なにか揚力装置を装備している?」
草薙が部下たちに尋ねた。
「いえ、そのような波長は確認できません。『超流動斥力波(ちょうりゅうどうせきりょくは)』は使ってないと……」
「なら、なぜ、あの女は空中に浮いている!」
亜獣だから……。
一瞬、エドはそれを口にしそうになった。思念を共有している人間の数人には、その思いが伝わった可能性があったが、すくなくともこの場の人間、とりわけ草薙大佐には伝わらなかったことにホッとした。専門家たるものが、気軽に口の
吹き抜けを取り囲むように四面に配置された通路に、
そのとき、女が言った。
「まじかるぅぅぅぅぅぅ」
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