第二章 第二節 電幽霊(サイバー・ゴースト)戦

第195話 新しい司令官

 次の朝、あたらしい司令官が着任するということで、ヤマトたちはローディングエプロン(乗降のための駐機場)へ集結させられることになった。総勢で200人はいるだろうか。それだけの国連軍のクルーが朝っぱらから整列させられている。

 乗降用駐機場にはすでに旅客機サイズの輸送機が駐機している。そのタラップ近く、列の最前列に並ばされているのは、自分をはじめとする三人のパイロット、副司令のミライ、アル、エド、春日リン、アイダ李子たち各セクションの責任者たちだった。

 あたりまえではあったが、皆、ブライト司令が休職願いを提出したことは知っていたので、これから着任する新しい司令官がどんな人なのかに考えを巡らせ、そわそわしていた。


 新しい司令官……。 

 この場所にこれだけのクルーを集めさせたのだ。それだけでヤマトは、その人となりが、容易におしはかれた。


 ブライトが着任時の挨拶は、基地内の構堂を使ったのを覚えている。

 そのときは、3Dホログラフィ映像やアンドロイド兵たちのショーが開かれ、徹底的にエンターテイメント志向の着任式だった。今なら、ブライトが自分の晴れ舞台を鮮烈に印象づけようとする、稚拙なアイデアだと斬って捨てることができるが、当時、十歳だったヤマトにはその華々しい演出が、とても楽しかった思い出として残っている。


 今度の司令官にはそんな虚栄心はない。

 むしろその意図はもっとわかりやすい。

 屋外での着任式。つまり構堂などの室内では、収まりきれない『隠し球』を用意しているということだ。着任と同時に、一気にクルーを魅了する切り札。

 あいにく、こちらはその切札を知っている——。

 昨夜、いやというほど歓迎させてもらった。

「なんか、胸くそわるいわね」

 隣でおちつかない様子のアスカが呟いた。

「なんでこんな雁首そろえて、お出迎えなわけ?」

「アスカ、臨時だけど、新しい司令官が着任するの。すこしは覚えめでたくしていた方がいいでしょ」

 春日リンがたしなめるように言った。

「はん、あたしたちパイロットには関係ないわ。交代させられる可能性がある、みんなとちがってね。それに……」

 そのことばに近くのクルーたちが一斉に、ざわっとした反応をみせた。

「アスカ!」

 ヤマトは即座にアスカを叱責した。今、この場では、あまりにもき出しすぎの意見だ。

 そこに含まれる怒気に気づいて、アスカが押し黙った。

 そこからはだれも口を開かなかった。ひとりひとり、今回の件で思うところがあるのだろうとヤマトは推察した。だがエドの反応だけはいくぶん過敏だった。ほかの責任者とちがって、体躯たいくをふるわせて、あきらかに緊張の度を越しているように見えた。ふだんあまりみることのない反応だった。


「エド、どうしたの?」

 その様子に気づいたのはレイだった。

 エドはレイが見つめているのに気づいてうろたえた。いつもならそのような醜態しゅうたいをさらしたとなれば、メガネの弦でもいじって、ごまかす仕草くらいはするはずだが、今はただうつむいているだけだった。

 眼鏡の奥の目におびえがみてとれた。


 何があったのだ——?。

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