第194話 今回の件はぼくが全部責任を負うつもりだ

 クララにこれ以上ないほどに銃弾をぶち込まれて、ヤマトの『壱号機』は空中でばらばらになりながら、レマン湖に落ちていった。

 パイロットシートで操縦をしていた『素体』も砕け散っていたので、機能していないリアル・バーチャリティ装置のゴーグルは外していた。壁面のモニタに映し出されている映像で、『壱号機』の墜落の瞬間を確認する。機体が水面にどんどんと近づいていく。そしてそのまま湖面に激突して水しぶきをあげる。

 思わずふーっとため息がでる。


「タケル!。あたしは今回の件、根に持つからね」

 目の前に顔をつきだして、アスカが声を荒げた。ヤマトがなにか抗弁しようとしたが、アスカは矢継ぎ早に自分の意見を畳みかけてきた。

「タケルは忘れていい!。あたしひとりが、この屈辱を忘れないでいるつもり」

「アスカ、なにをするつもり?」

 レイがゴーグルを上にずりあげながら訊いてきた。レイの『零号機』のリアル・バーチャリティ装置はまだ機能していたが、レイは早々と見切りをつけたらしい。

「さぁね。なにをするかは未定。でもあのふたりにはいつか、借りを返してもらうわ。あんただって悔しいでしょう。わざとやられたの?」

「えぇ。あんな甘ちゃんに、勝ちを譲ったのは納得いってない」

 ヤマトはシートからからだを起こしながら、ふたりにむかってに言った。

「アスカ、レイ、わるかった。今回の件はぼくが全部責任を負うつもりだ」

 いきなりヤマトに謝罪されて、すこしばつが悪くなったのか、アスカがなにか言いかけてもごもごと口ごもった。

「戦力差があったとはいえ、アスナ・ユキという男に完膚かんぷ無きまでやられた上、正体を見破られたのは、ぼくの作戦ミスだし、そのあとデータの奪取を彼に任せたのは、ぼくの判断だ。もし、このことでなにかがあったら、ボクが責任をとる」

「今回、あの輸送船を襲ったのが、わたしたちだって本部に訴え出たら、わたしたちどうなるの?」

 めずらしく不安げな顔つきでレイが訊いてきた。最前線から引き離されるかもしれない、と心配しているのだと、すぐにわかった。

「レイ、心配しなくてもいい。もし告げ口されたとしても、どうにもならないよ」

「どうして?」

「レイ様、大丈夫ですよ。あなた方には代わりがいないのですから。もしレイ様が重大な犯罪をおかしたとしても、人類存亡の危機に比べれば些細なことです。人類はみなさんに頼るしかないのです」

「ムーンベースのアカデミーには、わたしたちの代わりになる可能性のある候補生が、まだいっぱいいる」

「レイ、あんた、ボカぁ。あなたもわたしも、実戦で一体づつ亜獣を倒した実績があるのよ。これって上層部だって簡単には無視できない」

 ヤマトはレイとアスカにむけて、決意がこもったまなざしをむけた。

「これはぼくが判断したことだ。もしユウキがぼくをあざむいたのなら、ぼくが責任をもって彼に対処する」

「対処って?」

「場合によっては、命をもってあがなってもらうかもしれない」

「は、タケル、大袈裟おおげさね。あいつらは嫌なヤツだけど、パイロットとしては優秀なほうよ。だいたい、そんなつまンないことで、みすみす搭乗のチャンスを逃すようなことはしないわ」

「アスカは、ユウキとクララのこと、信じてるの?」

 すこし驚いたような表情で、レイがアスカに尋ねた。

「信じちゃいないわよ。疑ってないだけ!」

 ヤマトの口元がおもわずほころんだ。彼らのことをあれほどまでに卑下していたアスカの口から、思いがけないほど肯定的な意見が飛び出すとは思いもしなかった。それは、ヤマトにとっても、すこし肩の荷が下りたように感じられて、ありがたかった。

 

 三人の話し合いに一段落ついたと判断したのだろう、十三が咳払いをしてみんなの注意をひいてきた。

「エル様、アスカ様、レイ様、お疲れのところ、誠に申し訳ございません。出撃前に緊急の連絡がはいっておりまして……」

「出撃前に?」とヤマト。

「あ、はい。明日、早朝8時に駐機エプロンに集合せよ、とのことです。なんでも、あたらしい司令官とパイロットの着任式があるそうです」

「えー、あと3時間くらいしかないじゃないのよ。あたし、くたくたなんだけど——」

 アスカがいつものように率先してぶうを垂れたが、レイがそれを一蹴した。

「3時間あれば、シャワー浴びて、仮眠くらいはとれる」

 レイの現実的な提案に、ヤマトも同調した。

「あぁ、寝不足の顔は避けたいな。ここでの夜更かしがばれる」


 アスカが目をこすりながら、ため息をついた。


「わかったわよ。あたしは化粧ドロイドになんとかしてもらうわ」

「そんなに構えなくてもいいと思う」

 レイが不思議そうな顔でアスカに言った。


「そうはいかないの!。あのおんなの……、クララの着任式にくたびれた顔なんか、絶対みせられるわけない!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る