第123話 プルートゥの心臓に槍を突き刺してくれ
移行領域から全体を現したプルートゥを睨みつけながら、ヤマトはすぐに起ちあがった。
だが、すでに遅かった。プルートゥはマンゲツがとり落としたサムライソードを手にしていた。ソードはすでに光を失い、柄だけになっていたが、プルートゥはその柄の部分を手のひらの上でポンポンともてあそびながら、ゆっくりと近づいてきた。
ヤマトはゆっくりと左肩口から背中に帯刀した予備のサムライソードを引き抜いた。すぐに光の刃が柄からはなたれ刀身を充足していく。予備の刀は正規の刀に比べて、すこし短かい。
ヤマトはその剣を正面に構え、ぐっと腰をおとした。
アスカが降りてくる前に、倒さねばならない。そうしなければ、この亜獣は、必ずアスカに仇なすだろう。
プルートゥのジャグリングがピタリと止まった。まだ安全圏といえるほどの距離。サムライ・ソードの光の刃は形成されていない。すぐに攻撃に転じられるタイミングではない。
今、斬りかかるべきだ。
そのとき突然、プルートがサムライソードの柄を右手でグッと握りしめた。一瞬にして光の刃が伸びる。そして、その切っ先はマンゲツの頭から降り降ろされた。
『バカな!』
光の刀身が形成されるスピードが速すぎる。
しかも、その刃はマンゲツが使う時よりも、明らかに長かった。
『まずい、届く!』
届かないはずの間合いからふり降ろされる長尺の刃。マンゲは自分の剣で下からすくい上げるようにして、その剣を迎え撃った。光の剣と剣がぶつかり、バチバチとおそろしいほどの火花を散らす。ヤマトはギリギリ受けきれたと思っていた。
が、光の切っ先が、マンゲツの頭のプロテクタを切り裂いていた。マンゲツの顔を隠していた右側のプロテクタの一部が弾け飛び、おそろしい顔を垣間みせた。
『あぶない……』
ヤマトは大きく息を吐きそうになったが、プルートゥはその隙を与えなかった。最初の一太刀を受け止めた鍔迫り合い状態のまま、プルートゥはマンゲツを下に押し込んだ。
マンゲツの体がぐっと沈みこむ。
このままの勢いで刀身をおしつけられたら、今度はプロテクタだけでは済まない。マンゲツの身が裂ける。ヤマトはスロットルをつかむ腕に力をこめ、その圧力を最大限の力で押しもどそうとした。プルートゥはさらに力をこめて、ヤマトをマンゲツをさらに下に組み敷くようにソードを押しつけてくる。
「ヤマト、大丈夫か!」
司令室からブライトが、反射的に声を送ってくる。
「見ればわかるでしょうがぁ!」
「しかし……」
アドバイスを求めるのには、ブライトはむかない。
ヤマトは握りしめるスロットルレバーにさらに力を込めながら、アルを指名した。
「アル、どういうことだ。刀の長さが長いぞ」
サブモニタにアルの姿が映し出された。
「すまねーな。おれにもわからねーんだよ。あんなに伸びるように設計されてねーはずなんだよ」
「プルートゥに特殊能力があるのか?」
ヤマトがデミリアンの能力に言及すると、リンが突然会話に割り入ってきた。
「あるわけないでしょ。個体ごとの差違なんて微々たるものよ。デミリアンはみな同程度の能力しか有していないはずよ」
モニタに映しだされたリンは先ほどの騒動からは、すっかり落ちつきをとりもどしていたようだったが、その眉間には困惑ともいえる皺が刻まれていた。
「だったら、このパワーは何?。スピードも人間離れしている」
右隅の方にワイプ画面が開いてエドが口をはさんできた。
「ヤマトくん。プルートゥは亜獣なんだ。デミリアンが相手だと考えるのは危険だ」
そんなことはわかっている。
あいかわらずエドの意見は的を射ない。
ヤマトは具体的な解決策を誰からも示されないことに、苛立った。スロットルを引き絞る手が、徐々に痺れてきている。プルートゥの圧力に対抗するのにも限界がある。こうなれば、自分ひとりでこの苦境から逃れるという考えは捨てたほうが良さそうだった。
「ブライトさん、上空から投入するっていってたアンドロイド重機兵は?」
「今、ズクと交戦中だ。そちらに向わせる余裕はない」
メインモニタの上方に、アンドロイド重機兵がズクと戦っている映像が映し出された。驚いたことに、いまのところ、互角の戦いを繰り広げているように見える。とりあえず、プルートゥ以外の敵を相手にする事態が、避けられているのはありがたかった。
ヤマトはアスカに声をかけた。できるだけこの戦いには巻き込みたくなかったが、致し方ないと判断した。
「アスカ!。手助けを頼む」
「なにをすればいいのよ」
「プルートゥをとめてくれ」
「あたし、まだ降下中よ。また照明弾を落とすくらいしかでき……」
「プルートゥの心臓に槍を突き刺してくれ」
アスカが声を飲み込んだのがわかった。だが、ヤマトは続けざまに言った。
「デミリアンの心臓は胸の真中、つまりコックピットを貫いた先だ」
「アスカ、やれるか!」
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