第120話 見ぃ〜つけた

 亜獣アトンが針の矢を放った。道路にかしずく人々を無差別に刺し貫ぬいていき、一瞬にして何十人もの人々が犠牲になっていく。

 邪魔だてするものがいない間隙をぬって、アトンにはさらに次のブロックへ動きだす。だが、数歩もいかないうちに、突然バランスを崩して前のめりに倒れた。アトンは体をおこそうとするが、ガクンと脚をおり、そのままもう一度地面に崩れ堕ちる。アトンの両方の脚から緑色の血が、どくどくとふきだしていた。

 アトンの脚にビッシリと埋まったいくつもの目が、自分に攻撃してきたものの方向に、一斉にゾロっと動いた。

 低層ビルとビルの間、すこし広めの路地に、おびただしい数の目が集中する。

 そこに道路に這いつくばったまま、ナギナタをかまえるセラ・サターンがいた。


「見ぃ〜つけた」


 レイがにやっと笑って言った。

 セラ・サターンは青色の光に包まれた剣を振り上げると、うつぶせに倒れたままのアトンに飛びかかった。

 そのまま背中に剣をつきたてる。

 だが堅い針の鎧にはじかれて、突きさすことができない。

 レイの母親がレイの剣がはじかれたのを見て、ケタケタと笑う。

「けけけ、そんなのは無駄だよ」

 レイは母親を一瞥することもなく、「帯」とつぶやいた。手ににぎっていた剣が力をうしない、そのまま帯状の布に変形し、手のひらにだらりとぶらさがる。

 レイは腰から薙刀をひきぬいた。

「何をするつもりだね。どうやっても無理だとあきらめたのかい.」

 セラ・サターンが柄が短いままのナギナタに力を送りこむ。すぐにその先端の刃の部分が青白い光を帯び始め、輝きはじめた。右手にもっていた方布の「帯」に、『石突』と呼ばれるナギナタの柄の一番終端部分をおしあてる。

「まったくぅ、非力なのは、ほとほとうんざり、なのデス」

 レイはそう言うと、万布の帯のたわみに刃をのせ、そのまま遠心力をつかって、アトンの背中に叩きつけた。

 それはまるで小さな槍を投擲する『アストラル』と呼ばれる古代の投槍器のようだった。 体重を十二分にのせて、放たれたナギナタの刃はアトンの背中にズンとめり込んだ。 アトンが苦悶とも雄叫びともつかない獣のような咆哮をあげた。

 手や足をバタつかせる。

 それと呼応するようにレイの母親がドサりと天井から落ちてきた。その顔はいつになく苦悶の表情にいろどられている。

「きいたみたいデス」

「なにをして……」

「ゲーム、デス。モンスタを狩るゲーム」

「なんてことするの」

「こんなことをするの、デス」

 セラ・サターンは突き刺った刃を抜きとると、もう一度、万布を投槍器のようにして刃を背中に叩きこんだ。

 亜獣がさらなる大きな咆哮をあげる。今度は悲鳴のような声だった。

「レイ、やめなさい。母さんをいじめるのか……」

 レイの母親が首元をおさえながら訴えるように言った。

「ざんねん、レイではないです。『  』くうはくデス」


『  』くうはくはゲームでは絶対に負けないデス」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る