第104話 ひとがいっぱい死んでも?。あぁ、ひとがいっぱい死んでも、だ!
「亜獣、現出しました。清水グランドビルです!!」
ミライの報告にブライトはシートからはねるように立ちあがった。
「清水グランドビルだと!!。間違いないのか?」
「間違いありません、予定地から約21キロ離れた清水グランドビルです」
ブライトは我が耳を疑った。
かつて、出現予想の計測で、これほどまでの誤差があったことはない。ブライトはエドをにらみつけた。
「エド、どうなっている!」
だが、エドはすでにその場に膝をついて、メインモニタに映しだされている亜獣の姿を茫然自失として見あげていた。
だがブライトはそんな様子のエドに容赦しなかった。
「エド、説明しろ。なぜ出現位置がこれほどまでに狂った」
エドはゆっくりと首だけをブライトの方へ向けた。
「わかりません」
「でも、ありえない。今まで誤差精度99・5%の正確さを誇ってきたんだ……」
「だが現実には20Kmもずれている。どうしてくれる」
「ブライト司令!。今は責任を問うている場合じゃありません。どうするか指示を」
ミライが横から口を狭んできた。ブライトはミライの主張どおり、今さらエドを責めたてても何もならないことはわかっていた。だが、憤りをどうにもおさめることができずにいた。それは一個旅団を投入している日本国防軍のフィールズ中将の前で失態を、それも大失態をしてしまったということへの痛恨の思いがあるからだ。
ブライトはエドを叱責していながら、フィールズ中将にどう事実をつたえればいいのか.ばかりを頭に巡らせようとした。だが、そんな余裕はない。ブライトは忌々しげに息を大きく吐きだすと、メインモニタの方をふりかえって叫んだ。
「ヤマト、レイはそこからすぐに現場へ向かってくれ」
「セラ・サターン、すでにむかっています」
ミライが叫ぶように答えた。
「レイが?、どうやって?」
「全速力でダッシュして、です」
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その瞬間、レイは走り出していた。
あの瞬間、誰もが会話ひとつ、身動きひとつすらできずにいた。
亜獣が予想とはまったく違う場所に出現したのだから、それは理解できる。
だが、驚いている暇があったら、先にからだを動かせ、だ。
もしかしたら軍規違反になるだろうか。あのヤマトでさえ、行動をためらっていた。
ここから亜獣の距離は約二十キロ。
このセラ・サターンなら、十分もかからず、亜獣の懐に飛び込めるはずだ。だが、そのわずかな時間ですら、あの怪物はいいように暴れて、その場を蹂躙するに違いない。
止めなければならない。
日本国防軍の兵隊たちが移動してくるまで待ってられない。
セラ・サターンがビルの看板を蹴散らし、信号機のいくつかをなぎたおした。足が着地するたびに道にヒビが入り、そこかしこにひずみを生じさせる。渾身の力で走っているのだ。予定外の損壊については目をつぶってもらうしかない。
「レイ、ひとりでどうするつもりだ!」
モニタのむこう側からブライトが声をかけてきた。
「亜獣を倒す。それだけ」
モニタのむこうのブライトが軽く嘆息した。
「レイ、これは共同戦線だ。日本国防軍がそちらに到着するまで手をだすことは許さん」
「ひとがいっぱい死んでも?」
「あぁ、ひとがいっぱい死んでも、だ!」
ブライトが苦虫をかみつぶしたような顔で、吐き捨てるように言った。
「いや、レイ、もし倒せるなら倒せ!」
突然、ヤマトがその画面にインサートしてきた。
「ヤマト、貴様!」
ブライトがモニタのほうへ進みでて、いきり立っているのが見えたが、ヤマトは構わずに続けた。
「アトンの活動時間は限られています。あなたの面子を云々している場合じゃないでしょう」
そうブライトに釘をさすと、レイが映し出された画面のほうに目をむけた。
「ぼくもすぐに合流する。すこしのあいだ、ひとりで頼む!」
「了解」
レイはモニタ画面をセラ・サターンのメインカメラに切り替えた。疾駆する目前の光景に、光が広がってきた。人々が避難して無人になっていたエリアを抜けたのがわかった。
ここから先は、人々が平常の生活を営んでいる場所だ。
ふつうに人々がいる。
真夜中のため、蓄光ライトやホログラフィ映像看板など以外は、消灯されているほうが多かったが、それでもまばゆい光が徐々にふえはじめる。昼間と見まごうばかりに照らしだされている場所さえある。
レイはみな寝ているのではないかと思ったが、通り抜けていくビルや家の電灯がみるみるうちに点灯していくことに気づいた。ビルの窓側に身を寄せて、外を覗いている人々の姿も散見されはじめた。
「レイ、この地区に避難警報を発令しました」
ミライの声がきこえてきた。
レイは合点した。発令された避難警報で、人々があわただしく起床しはじめたのだろう。
「人が外にとびだしてくるかもしれないから、足元に気をつけて」
ミライが分かり切ったことを注意をしてきた。レイはわずらわしいと感じたが、素直に返事をした。
「えぇ、気をつける……」
「踏んづけても、ころばないように注意する」
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