第105話 案外、優秀な指揮官なのかもしれない

「ど、どういうことなんだ」

 フィールズ中将の声がモニタ越しに聞こえてきた。中将はあからさまな憤りを隠せず、、画面のむこうからビリビリとした緊迫感が伝わってくる。

 ヤシナミライは直情的なフィールズの態度に苛ついた。

 これは、司令官としての資質から大きく逸脱してさえいるとも思った。

 今、ここは戦場で、戦闘中なのだ、予定通りも予想通りいかないことが当たり前と考え、作戦を練り、指示をだすことが、任務ではないか。最初にイレギュラーが生じたからといって、どなり散らかして、事態が好転するわけがない。

 ブライトがフィールズの怒りに対抗して、事務的な口調でそれに応じた。

「我々にもなぜ、誤差が生じたかが不明です」

「今、デミリアン二体を現場へ急行させています。日本国防軍もすぐにあとを追っていただきたい」

「こちらは一個旅団だぞ。簡単にはいかん」

「簡単ではないから、お願いしているのです」

「動ける部隊も限定される。半分動けるかどうかだ。どうしてくれる!」

 ブライトがモニタのむこうのフィールズを睨みつけた。

「たった、20kmです。地球の裏側に現れたわけではない。今から動けば半分の部隊が20分で現着できるはずです」

 そして念をおすように、ゆっくりとことばを畳みかけた。

「フィールズ中将、たった20分、仇討ちが遅くなるだけですよ」

 フィールズ中将が画面の奥でおし黙った。

 思考の共有をしていなくてよかった、とミライは思った。

 亜獣戦に不馴れであることをさしひいても、このフィールズという男は、すこし神経質すぎる。こちらの癇にさわる気難しさだ。

 フィールズからの回線は、なにも返事がないまま切断された。

 ミライはブライトの説明に納得してはいないが、まずは行動を起こす選択をしたのだ、と解釈した。ブライトをみると額に手をあて、汗をぬぐっているのがみえた。

 無理もない。短いやりとりだったが、相当に緊張は強いられたはずだ。

 ふと、さきほどのブライトとレイとのやりとりを思いだした。人が死んでも手をだすな、と厳命していたはずなのに、ヤマトのひとことで、簡単に前言を撤回したように日本国防軍に対して遠慮のない発言をしている。

 ブライトは優柔不断だという評価が定着して、それをミライも感じることが多かったが、

ただ変わり身が早いだけなのかもしれない。

 どっちつかずの決断をするのではなく、どちらにつくかを目まぐるしく即断してるがゆえに、そう見えているだけだとしたら……。


 もしそうだとしたら、案外、優秀な指揮官なのかもしれない。

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