未恋

結城 雪

臆病な私

 私は臆病だ。

 距離にして数メートル。そんな近くにいるのに、これ以上近づけない。気付かれるのが怖い。気付いてしまうのが、怖い。

 それなら離れればいい。冬空の下、冷えた頭はそんな答えを出してくるけど、進む足も逸る鼓動もそれを許さない。気付かれないまま終わるのが怖い。気付かないふりをしているのが、怖い。

 勇気を振り絞って声をかけようか。もし、違ったら――鼓動は間違いないと言っているのに、怖くてたまらない。

 冷えた頭は簡単に答えを出してくる。この鼓動も必死に伝えようとしている。それでも心が、この感情に名前をつけるのを恐れている。

 久遠の時間が過ぎていく。続く道が終わりを告げる。

 私は臆病だ。怖がりなんだ。

 この恐怖はきっと誰にでも向けるものだって、鼓動に嘘をついている。あなたが特別なわけではないのだと、嘘をついている。

 髪型が変わっていた。「似合ってるね」って、少し褒めようと思った。いつも通り話しかけようと、頭の中で繰り返すたびに難しくなっていく。鼓動が邪魔をして、普段通りにさせてくれない。


 気付いてしまうのが、怖い。――あなたが遠い存在になってしまう気がして――

 気付かないふりをしているのが、怖い。――あなたに近づけなくなる気がして――

 

 最初からわかっていた。

 最後までわからないでいようとしていた。

 あなたが特別になってしまうのが怖いから。

 答えを知ってしまうのが怖いから。


 私は臆病だ。臆病だからきっと、あなたに近づけなくなる方が怖いから。

 だからこの気持ちに名前を付けよう。あなたを特別にするこの気持ちは――。

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未恋 結城 雪 @yuki315

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