2013年【行人】僕に何か出来るとも思えなかった。
中学二年になって、僕とミヤと寺山凛は同じクラスになった。
秋穂だけは違うクラスだった。
ゴールデンウィークに四人で遊びに行った。
とても素敵な時間だった。
夏休みにも四人で遊ぼうと約束をした。けれど、二学期の終盤に事件が起きた。
ミヤと寺山凛以外の人間からすれば、それは事件なんて仰々しいものではなかっただろう。
それでも当事者からすれば確かな事件だった。
担任の先生が席を外した際に始まったクラス全員を巻き込んだ馬鹿話、その中心にいたのは声が大きく派手な女の子とミヤだった。
その二人は以前から付き合っているんじゃないか、と噂が起こっていたし、お似合いだと言う声も少なからずあった。
しかし、ミヤはそういう噂を気にした様子はなく、クラスメイトに尋ねられればちゃんと否定もしていた。
声の大きな女の子が寺山凛をいじるようなことを言った。
皆が笑っていた。
教室の空気的にミヤは、それを否定できず、乗っかるような形で寺山凛をいじった。
「寺山さんって確かに暗いよね」
と言ったような言葉だった。
普段の宮本歩だったら決して言わなかったろう。
教室中の生徒がげらげら笑っている中、寺山凛が一人席を立った。
水を打ったような静けさが教室を支配し、寺山凛は俯いたまま早足で教室を出て行くのを皆で見守った。
ミヤの表情が何かに抉られ損なわれたのが、僕には分かった。
声が大きな派手な女の子が寺山凛を更にいじった。悪意があるのか、ないのか分からない。
ただ、白けた教室を盛り上げる為に必要な台詞だった。
気づけば僕は教室の笑い声よりも大きな声で宮本歩の名を呼んだ。
ミヤが僕を見た。
僕はミヤを見た。
ミヤの損なわれた表情に生の感情が含まれていくのが分かった。
寺山凛を追いかけるべく、ミヤは教室を飛び出した。
その日から寺山凛は学校に登校しなくなった。
後から聞いた話だが、寺山凛は裏で女子連中にいじられていた。
たちが悪いのは、やっている方がイジメといじりの限度を理解していた部分だった。
普段なら聞き流せる、なんてことのない一言が聞き流せなくなるほどのストレスを蓄積させて、そこをひたすら突いていく。
そういうやり方だと知った時、残酷だと僕は思った。
不登校になってから寺山凛は引っ越していった。
その事実に殆ど誰も気づかなかったし、気にも留めていなかった。
ミヤは寺山凛が登校しなくなってから口数が減っていった。
部活でもヘマをする数が増え、苛立った先輩が今度はミヤをいじりだした。
まともな返答のできないミヤに対し、先輩たちのいじりはエスカレートしていった。
やる方は最初が何てことがない為に感覚が麻痺していき、行動が過剰になっても罪悪感を覚えなくなっていく。
反応がないのだから大丈夫。
その大丈夫のエスカレートによってミヤの体は痣だらけになって、終いには煙草の火を押し付ける根性焼きが発覚してサッカー部は活動停止になった。
そして、ミヤは喋らなくなり、不登校になった。
――――――
寺山凛の引っ越し先を知ったのは偶然だった。
僕の母親と寺山凛の母親が交流を持っていて、荷物のやり取りの際に送り先を知ったのだ。
同時にその地名が昔お世話になった親戚が住んでいる町だとも気がついた。
僕に何か出来るとも思えなかった。
寺山凛に会いに行ったからと言って、四人で遊びに行った時のような輝かしい日々が戻ってくる訳でもなかった。
それでも僕は寺山凛に会う為に、中学三年の夏休みを利用して親戚の家へ行った。
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