2013年【行人】まさに叶わぬ恋というヤツだった。
私が高校二年生の頃に大森一文という教師が事故で亡くなった。丁度、衣替えをした時期だった。
当時の私は軽音部に属していて、大森先生はその顧問をしていたので面識はあったし指導も受けていた。
何故かは今でも分からないが、事故で亡くなった大森先生の自宅から遺書が出てきた。
その中に私の名前があった。
内容は趣味で描いた漫画を私に全て渡すというものだった。
私は大森先生が漫画を描いていたことなど知らなかったし、周囲の親しい人や先生の奥さんでさえも知らなかったそうだ。
何故、私に漫画を? と思っても本人が亡くなっているのでは、どうしようもなかった。
そんな私のもとに先生の奥さん大森雨さんが漫画を届けに来てくれた。
彼女の名前通りと言うと変だけれど、その日は雨が降っていた。
雨さんは薄い青色の傘をさして私の家を訊ねに来てくれた。
その傘がとても綺麗で、そして、その中にすっぽりと収まっている彼女はとても魅力的だった。
初恋の人に再会した時のような、そんな不思議な感覚が私の中には芽生えたんだ。
後日に知ったことだけれど先生と雨さんの間には子供が居て、当時一歳半か二歳だった。
まさに叶わぬ恋というヤツだ。
それから私は町で雨さんを見かけると話かけるようになった。
内容は基本的に先生のこと、漫画のことだった。
雨さんは先生の漫画を読みたがった。
その為、私は先生の漫画を持って雨さんの家へ何度か訊ねた。
変な話だと承知の上で言うのだが、先生から渡された漫画を読めば読むほどに、
「雨さんのことを任せたよ」
と先生に言われているような気がしていた。
それでも叶わぬ恋であることは変わらなかった。
ある日、海老嫌いの友人と酒を飲んだ時、負けた方が好きな人をデートに誘う、というルールでゲームをした。
ゲームに負けた私は後日、雨さんをデートに誘った。
高校三年生になった頃だった。
雨さんは私の誘いを快く受けてくれた。初デートは水族館だった。
雨さんはとても喜んでくれた。
そして、そこで私は告白した。
雨さんは私の告白に笑顔で応えてくれた。
そうして私と雨さんは交際をスタートした。
ゴールデンウィークにもデートをし、夏休みに入る頃に私は雨さんと真剣に付き合うとは、結婚することだと考えるようになっていた。
雨さんは私の言葉を子供の世迷言とは取らず、一人の人間の言葉として受け止め答えてくれた。
そんな雨さんだからこそ私は自分の両親を説得し、更に雨さんの両親に頭を下げに行けたのだと思う。
周りの協力があって私は高校を卒業と同時に就職し雨さんと結婚した。
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