2013年【行人】僕は本当に自分のことしか考えていないのだろうか?
一度、マンションを出て、コンビニで煙草とライターと缶コーヒーを買った。
公園のベンチで缶コーヒーを全て飲み、煙草を一本くわえ、ライターで火を点けた。気持ちが落ち着くかと思ったが、相変わらず僕の中には靄がかかり、虫が蠢くように騒がしかった。
まず浮かんだのは、井口は何も分かっていない。
という感情的な結論だった。
しかし、それは僕の願望に近い考えでしかない。
それこそ子供の所業だ。
まず僕は井口の言うことを飲み込み、噛み砕く必要がある。
一本目の煙草を全て吸いきり、何から考えるべきかを考える。
浮かんだのは、井口の
「あなたが自分のことしか考えていなかった」
という言葉だった。
僕は本当に自分のことしか考えていないのだろうか?
二本目の煙草に火を点け、結論を出す。
秋穂と同居することが決まった時の僕は確かに自分のことしか考えていなかった。
――行人は私にとって良い歌だったんだぁ。でもね、いつまでも良い歌だけを聞いていると、ある時、ある瞬間、耳障りな嫌な歌に聞こえる時があるんだ。
藍は言った。
それは藍と暮していた二年間の間、僕は何一つ変化しなかったことを意味している。
あの頃の僕は間違いなく、自分のことしか考えていなかった。
――でも、行人は手を抜かないじゃん。セックスとか、そーいう話じゃなくて、生きることに。
圭太は言った。
それは結局、僕が前しか見ていない子供だから、そう見えただけだ。
手を抜かなかった結果、僕は何も見抜けぬまま秋穂を失った。
しかし、必死だったからこそ僕は小さな光を追い、兄の死を知った。
そうすることで何かが変わったような気がした。
今でも僕は自分のことしか考えていない人間であり続けているのだろうか?
あり続けている。
だから、秋穂は出て行ったのだ。
僕は何をして来なかったのだろうか?
そして、これから僕は何をするべきなのだろうか?
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