2013年【行人】『コンビニ強盗は深夜って決まっているじゃないか』

 帰り道、携帯を開くと田中さんからメールが届いていた。

 万引きをする日を決めた、

 という内容だった。僕はすぐさま田中さんに電話をした。


「どもー」


『やぁ、どうしたんだい?』


「あ、今、大丈夫でした?」


『仕事帰りだから、気にしなくていいよ』


「良かったです。万引きする日、決めたんですね」


『あぁ、私はするよ!』


「戦利品の写メは是非、送ってきてください」


『分かった。要件はそれだけかい?』


「あのですね」

 と僕は峠についての説明をし

「何か知っていることはありませんか? 昔でも今でも、構わないので」

 と言った。


 しばらく考え込む間があった後

『申し訳ないけど、特に浮かばないね。

 それこそ昔、私を詰まらないって言う友人と、その山へ遊びに行っていたけどね。それぐらいだよ』


「そうですか、ありがとうございます」


 子供時代の田中さんを想像すると、簡単に浮かんできた。

 今とさして変わらず他人の後をついて回り、ふとした時に一番頑固だったりする、そういう子供。


「そうだ、田中さん。万引きするコンビニなんですけど、決めてます?」


『ん、まだだよ?』


「じゃあ、って言うのおかしいですけど、お願いがあるんです。良いですか?」


 僕のお願いは単純だった。

 万引きするコンビニを隣町にして、僕をついでに隣町まで車で連れていってほしい、

 というもの。


 田中さんは余計な詮索はせず、

『隣町の方がリスクは減るかな、うん。良いよ』と言ってくれた。


「時間は深夜が良いんですけど、どーですか?」


『コンビニ強盗は深夜って決まっているじゃないか』

 と田中さんが笑った。


「田中さんがするのは強盗じゃなく、万引きですけどね」


『あ、そうだったね。勘違い』


 何を勘違いしたのだろう?

 と思ったが、もちろん何も言わなかった。


『で、行人くん。隣町に行って何をするんだい?』


「UMAを探します」


 一度、自分の足で峠を歩いてみたかった。

 ルートは隣町から峠を通ってこの町に帰ってくる。

 その場合、補正された道路だけを通る。


 そして、そこでUMAを見つけたら携帯のカメラを使って撮影する。

 田中さんが万引きをし、僕は峠を探索する。

 朝に合流し、互いに結果を報告する。


 この時、昼まで連絡が取れなかった場合、互いにトラブルがあったと判断する。

  もし万が一、田中さんが警察に捕まったとするなら身元引取り人は僕が行く(僕で大丈夫なのかは分からないけれど)。

 僕が山の奥深くに入り込み遭難したとするなら、田中さんが警察に連絡を入れる。


 穴だらけの計画ではあるけれど、そういう手筈で動こうと思った。

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