2013年【行人】「オカルトがどうして無くならないか、考えたことある?」

 やっぱりというのは、

 おかしな話だけれど、やっぱり秋穂が大きな鳥を見たというのは、

 MR2の赤グラサン川島疾風が失踪した峠だった。


 突き破られたガードレール、

 掃除された道路と回収された車、

 そして、UMA。


 偶然とはもはや言えない。

 あの山には何かがある。


 里菜さんの取って来いと言うUMAも、その山にあるのだろう。

 僕は無駄足になるとしても、峠のある山を調査しなければ済まない気持ちになっていた。


 僕はまず図書館とネットを駆使し、山のこと、山で起きた事件などを調べた。

 昔、山にはどのような神様がいて、現在には残っていないが神様を讃える祭りがあり、

 その祭りの歴史がどれほどで、といった情報が集まった。


 UMAのような動物が発見されたなどといった記述は一切、見つからなかったし、事件の方に関しては五年前に一度、事故があったとあるだけだった。


 夕方近くには図書館を出て、中谷優子とその弟の中谷勇次が住んでいる一軒家を訪れた。

 チャイムを鳴らしたが、やはり物音ひとつしなかった。


 右隣の家のチャイムを鳴らしてみたが、こちらも留守のようだった。

 左隣、美紀さんと一緒に訊ねた和田家のチャイムを鳴らしてみた。

 

すると、やはり五十代くらいの女性が

「はい」と顔を出した。


「こんにちは」

 と僕が言うと、女性はやや考えた後に


「ああ」

 と頷いた。

「美紀ちゃんと一緒に来てた子ね。どうしたの?」


「すみません、突然。

 あのですね、隣に住んでいる中谷くんと僕、知り合いで。それで最近、連絡がとれなくなっちゃってるんです。何か知っているようだったら教えてくれませんか?」


 女性はしばらく僕を見た後、如何にも不快そうな顔で言った。


「中谷の人間と関わるのは、止めた方が良いわ」


 僕は女性の言葉を頭の中で繰り返した後に言った。

「どうしてですか?」


「知らなくていいことよ」


 女性は扉を閉めようとした。


「待って下さい。もしかすると、僕はもう関わっているかも知れないんです。

 だから、何か知っているなら教えて下さい」


 僕の言葉に女性の目がすっと細められた。


「オカルトがどうして無くならないか、考えたことある?」


「いえ」


「無意味なものに意味を見出そうとするからよ」


「え?」


「知らなければ無意味なものは無意味なままなの。

 世の中には考えちゃいけない種類のことがあるのよ」


 女性は扉を完全に閉めてしまった。

 僕はその場に立ちつくし、女性の言葉を何度も繰り返した。


 考えてはいけない種類のことが中谷の人間にはある?


 中谷優子やその弟の勇次にそういう類の意味がある?


 無意味なものに意味を見出す?

 知らなければ無意味なものは無意味。

 分からない。


 ただ、中谷優子は秋穂のアルバイト先の先輩であり、勇次はあずきの同級生で、彼らはこの町から姿を消している。

 その事実を僕は知っている。


 そして、それについては考えなくてはいけない。

 女性が何を知っていたとしても、揺るがないものが僕の中には確かにある。

 僕は僕の問題として中谷の人間と関わている。


 その先に女性の言う、

 オカルトや考えてはいけない種類のことがあるのだとすれば、その時に改めて考えて選ぶしかない。

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