2013年【行人】「ねぇ未来予想図ってある?」

 フジくんが川島疾風を見た峠のある山は、僕にとって特別な場所だった。

 それはやっぱりと言うのは変だけれど、十五歳の頃の記憶で、朝子と出会った山だった。


 山の中腹に小さな墓地があって、朝子は病院を抜け出すといつもその墓地へと赴いた。

 その小さな墓地から町を見下ろすことが出来て、夜に行くと見事な夜景が広がっていた。


 パジャマ姿の朝子は深夜の墓地に行っては夜景を前に車の音を聴いていた。

 山の峠では夜な夜な走り屋が走るコースの一つになっていて、朝子はそれを聴きに来ていた。


 薄い暗闇に響く走行音、

 エンジン音、

 そういうものを聴いて朝子は歌っているみたいだ、

 と言った。

 ほのかに光る外灯や家の明りを前に、注意深く耳を澄ませてみると、確かに車の進行音は一定のリズムを持っていた。


 ただし、その歌は決して楽しいものではなく、理不尽に対する確かな憤りのような激しが含まれていた。


「ねぇ未来予想図ってある?」


 朝子が僕に尋ねた。

 突然の質問だった。

 十五歳の僕はなんと答えたのだろう。覚えていない。

 ただ、彼女の未来予想図はしっかりと覚えている。


「私はね、お姉ちゃんと手を繋いで外を歩くことなんだ」


 朝子の姉と僕は同級生でクラスメイトだった。

 あの二人が、その後に手を繋いで外を歩けなかったことを僕は知っている。

 ただ、朝子の姉は彼女の未来予想図をちゃんと知っていたのだろうか?


 僕は今になっても確かめられずにいる。


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