2013年【行人】「お前が動く理由なんて、それしかねーだろ?」
秋穂の職場の先輩、中谷優子とその彼氏の行方を探し、ついでに兄貴の所在探しをする。
その為に、まず僕がしたのは一週間分の新聞に目を通し、友人と知人に聞いて回ることだった。
高校時代の友人、圭太が兄貴の最近を知っていた。
圭太は駅前にある「響」というバーで働いていて、兄貴はそこの常連客だった。話が聞きたいと僕が電話口で言うと、休日は人と会う気がしないから店に来いとのことだった。
僕はバーの開店時間ぴったりに店を訊ねた。
圭太は学生時代と変わらない笑みで僕を迎えてくれて、カウンター席を勧めた。お手拭を受け取り、
「ご注文は?」と圭太は言った。
「ビールで。圭太も、なんか飲んで」
「ありがと」
圭太はビールを注いだ後、僕の知らない銘柄のウィスキーの水割りを作った。グラスを受け取り二人で乾杯した。
話もそこそこに僕は兄貴の話を持ち出した。
人に迷惑をかけることが存在意義と言わんばかりの兄貴だから、バーでも嫌われているだろうと思ったら、案の定だった。
「いや、お前の兄貴っつーか、そのグループだよな」
「グループ……」
やくざの息子、という単語が自然と浮かんだ。
圭太はコンポにCDをセットした。流れてきた曲に聞き覚えはなく、尋ねると
「ウィーザー」
と言った。「最近、ハマってんだよ」
「ふーん」
「んで、知ってるかどうか分かんないけど、お前の兄貴のグループの一人、……リーダーかな?
が俺の親父はやくざだって騒ぐサル顔でさ。
他の客に迷惑をかけるわ、命令口調でこっちをパシらせるわで。出禁にしようって話がでてたんだけど、そのサル顔がマジでやくざの息子だったのな。
いろいろ面倒ごとになりそうってんで、店長と相談してたんだけど、丁度一週間前からかな?
そのサル顔グループがそっくりいなくなっちゃんたんだよ」
「ん?」
「いわゆる、行方不明?
単にみんなでどっかバカンスへ行ってんのかもしれないけど。町でも一切見かけないから、サル顔グループの一人に連絡入れてみたんだよ。
でも、繋がらなくてな」
「ふむ。ってか、連絡先交換しようって思える、まともな奴が、そのグループにいたの?」
「いなかったよ。全員、頭のネジが一本か二本は飛んでたからな。
でも、まぁ金はちゃんと落としていくから、形だけでも仲良く、みたいな?」
「なるほど」
圭太いわくサル顔のグループは基本的に五名。
時々、一人二人減ったり増えたりはあるものの、メインは変わらない。そのメインに僕の兄貴は入っていた。
「お前の兄貴、昔は凄かったのにな」
「そうか?」
「ホント兄貴嫌いだな」
うん、と頷きたかったがそうはせず、グラスに口をつけた。
僕が何も言うつもりがないと分かったからか、圭太はため息をついた。
「んで、お前。なんで、兄貴の行方とか探してんの?」
「頼まれたから」
「あぁ、秋穂ちゃんか。元気?」
「なんで、秋穂だと思うんだよ?」
「お前が動く理由なんて、それしかねーだろ?」
僕はビールを一気にあおった。
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