いいよ。なにも言わなくて

 夜になり、ユキは布団の中で意識を取り戻した。


「…………起きたか?」


 目を覚ましてすぐ、ユキは繋いだ手の先にオレを見つける。

 そしてすぐになにか言おうとして口を開いた。


「…………」


 けれど、言葉は出なかった。


「いいよ。なにも言わなくて」


 オレは充電のなくなったケータイを置く。


「またあしたきいてやるから。今日はこのまま一緒に寝ていよう」


 そういって微笑みかけると、ユキも口元を緩ませて、そっと青い目を閉じた。

 彼女の身体から昇っていく水泡に、丸い月の光が映り込んでいた。

 雨水を流しきった夜空には無数の星が瞬いていた。


 その日オレがずっと眠れずにいたことを、もしかしたらユキは知っていたのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る