冗談だよ

 雨が、終わらない。


「ねえ、コウ」


 日を跨ぎ、少しだけ喋れるようになったユキが、絞り出した声で尋ねてくる。


「わたしは死んだら、どこに、いくんだろう?」

「なにいってんだよ」


 人はいつか死ぬ。そういって笑っていたいつかのユキはもういなかった。


「ねえ、コウ」


 喉の端から零れ落ちていく弱々しい声で、ユキは言う。


「ここで死んだら、ダメかな?」

「なにいってんだよ」


 隣で横になっているユキの顔を見ることができなかった。


「じゃあ、山頂で、死んだら……」

「なにいってんだよ」


 部屋の低い天井を睨みながら、オレは言った。


「おまえはまだ、大丈夫なんだろ? なに弱気になってんだよ?」

「どう、思う?」


 ユキがオレに判断を預けてくる。

 自分の未来を、可能性を、預けてくる。


「大丈夫だよ」


 そう、オレは言った。


「いつ死ぬかなんて、ちゃんと治療受けて、この先何十年か生きて決めればいいじゃないか。生きていれば治療法だって見つかるかもしれない。いや、きっとみつかる。だからそんなこと、考えるなよ」


 無責任な言葉だと思った。


「冗談だよ」


 と、ユキは言った。

 ちっとも冗談にきこえなかった。

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